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そして、オヤジさんは、僕の前に正座すると、頭をこすり付けながら話し出した。

「これは、栗原の坊ちゃん。お久しぶりで御座います」

「いやいや、頭を上げてください」

「いや、このまま、私の話を聞いてください。実は昔、工場の経営が悪くなった時にあなたのお父さんに、莫大なお金を借りたまま、まだ返済も出来ておりません。しかも、ご両親の葬儀にも、後ろめたさから出席できませんでした。誠に申し訳御座いません」

「……。いや、それは僕のオヤジとあなたの話であり。父も、もう他界したのでいいんじゃないでしょうか」

「そう言う訳には、いきません」

泰蔵が、横から割って入った。

「で、とりあえず、お前。働くところが無いんなら、ここでしばらく働かないか?ってオヤジと話してたんだよ」

「それは、助かります。宜しくお願いします」

僕が泰蔵の父親にそう言うと、彼は微笑を浮かべながら答えた。

「内は、零細企業で大した給料も出せないけど、どうか一つお願いします」

「いや、こちらこそ、どうか宜しくお願い致します」

話が終わると、泰蔵のオヤジさんは一礼すると奥の部屋へ戻っていった。

それからしばらくすると、泰蔵のオフクロさんが料理を運んできてくれたので、二人でそれを食べつくすと、しばらく世間話をした。

そして、一息ついた所で家の前の自動販売機に向かい、お互い缶コーヒーを買うとタバコに火を点けた。

タバコの煙をお月さまに吹きかけた後、泰蔵に話しかけた。

「泰蔵、俺もうダメかな?」


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