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「ちょっと、何してるんですか?」

藤本は、少し微笑みながら叫んだ。

「栗原賢一。8時23分、金融商取引法違反容疑で逮捕する」

「なんなんですか。これは?」

「もう一度、仕切りなおしてゆっくり話を聞かせていただきたいと思いましてね」

彼は、ニヤニヤしながらそう言った。

そうか、分かった。起訴に踏み切れる証拠がないから、20日の拘留期限が切れる間際にもう一度逮捕状を取ったんだ。いったん釈放して再逮捕か。やられた。今一歩のところで、再逮捕された僕は、刑務官と検察官に付き添われ、また自分の房に戻された。

刑務官が僕の房の鍵をかけると、藤本検察官が叫んだ。

「栗原さん、ここはそんなに甘くありませんよ。明日からは、心を入れかえて下さいね。じゃあ、お休みなさい」

彼はそう吐き捨てると、二人ともゆっくりと僕の房を離れていった。

悔しく、そして虚しい。僕は、一人泣き崩れてしまった。

苦しい。辛い。これ以外の感情が湧いてこない。

どうすれば、この苦しみから逃れられるのだろう。

映画やドラマのなかで、主人公が脱走したり、自殺したりするシーンがあるが、現実には到底不可能だ。

明日の見えない暗闇の中で、僕には祈る事しか出来なかった。そろそろ、精神的に限界のとこまで来たな。ある程度、罪を認めるか。そうすれば、ここから逃れられる。

大きく息を吸い込み、天井を見上げた。

いや、ダメだ。

必ず奴らにも弱点がある。その内、何らかの弱みを見せる局面が来るだろう。

そうだ、そこを突破するんだ。

僕は、これまでそうやって勝ち上がって来たじゃないか。

よし、今日はもう寝よう。

何も考えずに、明日からは徹底的に、彼らの弱みを分析しよう。

そんな事ばかり考えていると、いつの間にか眠りに就いた。


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