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マズイ、マズイぞ。流れが変わった。
彼は、紙コップに10円玉を入れると逆さにしてテーブルに叩きつけた。
僕は、紙コップがゆっくりと上に上がる様を見続けた。
状況が把握出来ない。まさか、表が出るなんて。
放心状態になっている僕に彼がピストルを手渡した。
「私の勝ちですね。栗原さん、じゃあ、お願いします。ピストルの安全装置は外してくださいね」
ピストルの重みが手のひらに沈んだ。彼の言うとおり安全装置を外して、銃口を自分のこめかみに当てた。
なぜだ。なぜこうなったんだ。たしかに僕の勝ちペースだったのに…。
そうだ…。金と命の価値を図り違えたんだ。
奴は、ゲームを始める前に、命=1千万円という提示をしてきた。
僕は、この状況から逃げ出す気持ちが先走り、彼の提示を安易に受け入れてしまった。そして、僕はもう一つ重大な過ちを犯した。
彼が、理香の借用書を取りに行った時、自分の財布の中から10円玉を1枚取り出して、左手の腕時計の裏に密かに挟み込んでおいた。つまり、いつでも勝負を操れるように細工をしこんでいたのだ。
でも、心の奥底で自分が絶対に勝つという驕りが出てしまった。
そのために、このゲームの最後の時点で彼が紙コップを開ける瞬間に難癖をつけて僕が紙コップを開けるふりをしてイカサマを仕込むタイミングを見逃してしまった。
それから、理香を助けたいと言う甘い感情が僕の判断能力を鈍らせた。
普段なら、こんな不利な条件に安易に応じる僕じゃないのに…。
彼は、きっとすべての事を計算していたのだろう。
そして、このゲームも彼がイカサマを仕込んでいたに違いない。僕がイザという時の起死回生のイカサマを準備していたいたように。
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