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「京介、なにやってんの?」
「バカか? こいつ今、お前を突き落とそうとしてたんだぞ」
そんなバカな。なぜ、ヤスオがそんなことを。呆然とした僕に向かって京介が言った。
「ついでだから報告だ。ナノロボットをラボから持ち出したのはコイツだよ。コイツがラボのセキュリティーチェックを不正に解除して持ち出したんだ。証拠もある。ラボのチェックプログラムのログ洗ったら、見事にこいつが浮かんできたぜ」
うそだろ?ヤスオが僕を殺そうとした上に、ナノロボットを持ち出したのか?一体どうして。
「ヤスオ、うそだろ?違うよな。お前じゃないよな?」
僕の問いかけに、ヤスオはしばらく口をつぐんだままだった。だが、京介の手をふりほどいて逃げられないと観念したのか、小さな声で話し出した。
「ああ、僕がやった」
「どうしてだ?」
「賢一君は何も覚えていなようだね。高校生の時、君達は僕の事を冗談でからかってたと思うけど、僕がどんなに辛かったかわかるか? 退屈しのぎにいじめられるヤツの気持ちがわかるか?お前たちが忘れても、僕は一生忘れないぞ。ブルー・アース・プロジェクトとかいったっけか?
ずいぶん立派な話じゃないか。人一人の心を、退屈しのぎのために平気で踏みにじるようなヤツが、世界平和だと?僕はあの頃、毎日自殺することを考えるほど苦しかったんだぞ。
そんな人の心の痛みがわからないやつが、みんなの幸福を実現するなんて笑わせるぜ。この会社だってそうじゃないか。大義名分だけは立派だが、世界中に兵器を輸出して、争いと殺戮の種を蒔き続けてる。
栗原、お前にそっくりだよ。立派な大義名分だけは並べ立てるが、結局は自分の考え方に沿わない人をこの世界からはじきだそうとしてるだけじゃないか。僕はこの会社を許さない。お前も許さない。いつか必ず復讐するために一浪して大学を出て、お前が移ってきたのを見計らって、転職してきたのさ」
僕も京介も何も言えなかった。
そう言えば、高校生の頃、僕と京介とマサハルで、冗談交じりにヤスオの肩をこづいたりしてたな。いや、まだある。
屋上から逆さ吊りにしたり、よくパシリにしてたっけ。
それから、自分の気分がすぐれない時は、意味もなくヤスオのケツ蹴り上げたりしてたな。僕が呆然とヤスオの顔を見ていると京介がヤスオの手を掴んだまま、踵を返した。
今考えたら、ひどいことをしたと思う。でもその頃は僕も京介もあれていて、ただの悪ふざけ程度にしか考えてなかった。ヤスオの身になって考えたりすることはできなかった。それだけ辛い目にあわせていたんだな。ヤスオが自分の腹の底をぶちまけてくれて、むしろ感謝した。
「賢一、仕事中だ。戻るぞ」
僕は京介の声で我にかえると、ヤスオのもう一方の手を握り、3人で歩き出した。屋上のドアを開けて、エレベータホールにたどり着いたが、なかなかエレベーターが来ない。
やっと、エレベーターのドアが開くと誰もいないスペースに僕らは乗り込んだ。沈黙の時間が過ぎる。ヤスオは、さすがにバツの悪そうな顔をしていた。
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