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僕はベンチに腰掛けたまま、大きな声で彼に話しかけた。
「お〜い、ヤスオ」
彼は僕の声に気付いたが、僕の事はわからないみたいだった。
「ヤスオだろ?俺だよ。賢一、栗原賢一」
ようやく僕の事がわかったらしい。というか、おふくろさんから、僕が富国電気にいることを聞かされていたからわかったんじゃないかな。
「ヤスオ、ここ座れよ」
「あ、うん」
彼は、そういうと僕の横に座った。
「ヤスオ、ここで働いているんだったら挨拶くらいしてくれても良かったんじゃないの?」
「ごめん…。おふくろから聞いてはいたんだけど、いろいろと仕事が忙しいもんでつい…。それに、職場が違うとなかなか行きづらいからね」
「そかそか、特にうちのセクションは倉庫みたいだしな」
僕はそう言って、タバコをふかした。
「賢一君、仕事はいいの?」
「お前は?」
「ちょっと疲れたんでサボってるんだ」
「俺もいっしょ〜ここからの眺めはいいからね」
つたない会話だった。しかしほんの一瞬だけど学生時代に戻れた気がした。僕が無言で立ち上がり、突き当たりのフェンスの所まで歩き出すと、後からヤスオも歩いてきた。
フェンスの手すりを左手で握り、右手でタバコをふかしながら街を見下ろした。
「なあ、ヤスオ。東京の奴はこんなゴミゴミした場所でよく生活できるよな?」
ヤスオは、僕の後ろで無言のまま、話を聞いていた。
空を見上げて深呼吸し、また彼に話しかけようとした瞬間だった。後ろから、京介の怒鳴り声が聞こえた。
「テメエ、何やってんだ」
振り返ると京介がヤスオをの右手を掴んでいた。ヤスオは京介の手をほどこうと必死になってる。
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