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なんかいい感じだったな。まあ、金をかけりゃあいいってもんでもないしね。残念なことといったら、オヤジさんが奮発して焼いてくれたホッケが、こげこげだったってことくらいかな。まあ、そんなことも気にならないくらい、佐藤は幸せそうだった。
今日は、二人とも10時過ぎに出社してくる予定なので、昼飯を食いながら佐藤のノロケ話を聞くハメになりそうだ。それにしても、先が見えない仕事というのはストレスがたまる。
みんなタブーにしているが、COLORの問題が解決しなかったら、経営責任を取らされて、無一文に逆戻りなのだ。言葉にこそしないが、みんな苛立っていた。
「京介、ちょっと、屋上に行って一服しねえ?」
「これもうちょっとやってからいくから、先に行っといてよ」
「あ、そう、じゃあ失礼します」
僕は、京介にそう言うと席を立ち、エレベーターホールに向かった。
エレベーターホールに着くと、ちょうどエレベータのドアが開いたので上のボタンを連射した。やべえ、ストレスたまってるな。ボタン連射したからって、エレベーターが早く動くわけじゃないのにな。
ようやくエレベーターが動き出すと、ネクタイを緩めながらエレベーターの階数表示が上がっていくのを見つめた。狭いパーティションの中で仕事をしているせいか、エレベーターの中にいると、なんだか息苦しさを感じる。
エレベーターのドアが開くと同時に、僕は外に出た。少し息をするのが楽になる。ネクタイを完全に緩めて、突き当りの屋上にでるドアを開けた。
ドアの向こうは、相変わらず、ゆっくりとした時間が流れていた。天気がいい。そのせいか、どこかほのぼのしている。
ベンチに腰掛けると、スーツの胸ポケットから、タバコとライターと携帯灰皿を取り出した。タバコに火をつけると、僕の緊張感が煙になって、空にのぼっていった。
ゴリと一緒にレッドパーツを取りに行った時よりは、ましな毎日なんだろうけど、なんだか張り合いがない毎日だな。何度かたばこをふかしながら、そんなことを考えた。
たばこを一本もみ消した瞬間だった。屋上のドアが開く音がした。
京介だろう。そう思っていたら違った。見慣れないキモロン毛の男が、僕の前を通り過ぎていった。
彼は、つきあたりのフェンスの所までいくと、ぼんやりと街を眺めはじめた。
「あれ? あいつ?」
あの、キモロン毛はどこか見覚えがある。記憶の片隅にある映像を彼に重ねた。
ヤスオだ。パシリのヤスオだ。
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