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佐藤は、たこ焼き屋の彼女の事を考えているんだろうか? さっき、彼女につっけんどんな態度を取ったのは、自分の辛い顔を見せたくなかったからかもしれないな。
無理もない。あんな危険な事に巻き込まれたんだから。佐藤が人脈を使って、自衛隊を動かしてくれなかったら、今頃どうなっていたことか。
でも、ある意味、こういう時間は新鮮だ。みんな、互いに違う事を考えていても、確実に同じ方向に向かって進んでいるのがわかるから。
窓の外に視線を移した。やけに街の明かりがギラついて見える。それだけ疲れているんだろうか。ヤバ、そういえば、ツタヤのDVD返さないといけなかった。延滞料金とられちゃう。まあいいか。無事に生きて帰ってこれたんだし。延滞料金くらい安いもんだ。
「お客さん、つきましたよ」
僕らを乗せたタクシーは、いつの間にか三番館の前に辿り着いた。
佐藤が後部座席で高いびきで眠っている康市を起こしている間、僕は運転手に料金を支払った。
「頑張って、絵を描いてくださいね。きっといい絵が描けますよ。あきらめないで」
僕が助手席のドアを閉めようとすると、運転手のお兄さんが大きな声で叫んだ。
「大将、ぜってい天下取ってくださいよ〜」
僕らは、彼に向かって敬礼した。タクシーがクラクションを2回鳴らして去っていった。
「そういえば、俺達、いつスーツに着がえたんだっけ?」
京介が言った。そういえばカラーパーツを取り戻してヘリで美森まで送ってもらった後、いつ着がえたんだろう。全く記憶がない。
そうか、シャッター商店街のオフィスのロッカーの中に以前入れていたやつを着込んだんだった。それだけ緊張してたんだろうか。意識が朦朧とした状態で着替えたんだな。そのせいか、ネクタイを締めてない。まあ、いいか。今日はラフな感じでいいんだ。
いつものように、ミーティングや商談があるわけじゃないから。
空を見上げた。ネオンで星は見えない。でも、僕は確実にこの町に帰って来たんだ。ゆっくりと自分の中に広がっていく感動に浸っていると、京介が僕の肩を叩いた。
「中に入ろう。腹減っただろう?」
「ああ」
いつになく京介は優しい声だった。永遠の友の一声で我にかえって、店のドアを開けた。
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