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「御曹司というか、まあ、びんぼっちゃまって感じだけどな。それはお前が一番知ってんじゃない」僕がそう言うと、京介は大爆笑した。
「しかしまあ、よかったな。富国電気が出資してくれるんなら、今回のプロジェクトは安心だ。持株会社を作るって言ってたから、また別のオイシイ話も転がり込んでくるかもしれないね」
京介は、コーヒーを傾けながら、ご満悦だったが、僕は笑えなかった。正直いって、オジサンの事は信頼してない。骨肉の争いに敗れ、派閥から叩き出された僕のオヤジは、美森市に支店を作らされて、無理矢理異動させられたのだ。
つまるところ経営権を取り上げられて、左遷されたわけだ。
今日、オジサンが助けてくれたのも何か魂胆があるのだろう。まあいい、とりあえずは様子を見よう。もうプロジェクトは動き出している。
「じゃ、ここら辺で一本締めをして、お開きにしましょうか」
「また、俺はやられたってわけか」
僕がみんなに声をかけた時だった。後ろで声がしたので振り返るとアキラと麻美が立っていた。
「また、お前らに負けたよ。結局俺は一生お前らには勝てないみたいだな」アキラはそう言うと、近くのテーブルに着いた。
「一人勝ちしないことを考えるやつは結局一番強いんだよ。お前もそうやって街を出るハメになっただろ?」
「そうですね。今回は勉強になりました」柄にもない返事だったが、アキラの目からは、険しさが消えていた。
「アキラのとこも一緒でいいよな」京介が尋ねてきたので、僕は無言で軽くうなずいた。それから、アキラを混ぜてみんなで一本締めをして解散した。
僕が帰ろうとするとアキラと京介は、仲良く話しながらエレベータへ歩き出した。麻美はみんなから距離をとって、後ろの方を一人で歩いていた。
エレベータがやってきたが、定員オーバーで全員は乗れなかったので僕はみんなに譲ることにした。
「俺、佐藤さん達と帰るんで、賢一さんは俺の車使ってください。それから、打ち上げはタロチャンに七時集合ですので。それまで、ごゆっくりどうぞ」
そう言うと、とニヤニヤしながら後ろを指差して、車のキーを渡してくれた。ドアが閉まり、みんながいなくなった瞬間ため息が出た。
閉まりきったエレベータに向かって吐き出した、ため息はとてもむなしかった。勝ち戦の雄叫びには、ほど遠い。
「一人になりたいの? せっかくプレゼンに勝ったのに」後ろを振り向くと、麻美が少し照れながらこちらを見ていた。
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