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彼は、今まで勉強と仕事に明け暮れて、この年まで恋愛というものに縁遠い環境にいたのだろう。女の子からメールアドレスを教えてもらっただけで、結婚できると勘違いしている。
おそらく、ホッペにチュウどころか、握手すら出来ないだろうけど。
「イタイ」を通り越して、見ていて思わず合掌したくなる光景だ。
「はしか」って、たしかガキのうちだったら、熱が出るくらいですむけど、大人になってかかったら、死ぬことがあるんだっけか。
恋愛もそうだよな。何事も若いうちに経験しておくものだ。マジでそう思った。いい勉強になったよ。
少し遅れて、康市が僕のところへ歩いてきた。そして浮かれている佐藤の隣で、こちらに向かって、「ダ・イ・セ・イ・コ・ウ」とピースサインをした。
なるほど。京介と康市が佐藤と彼女の恋のキューピット役に徹して、メルアドを聞いてやったというわけか。
京介は、いつも誰かのために、頑張る節がある。だから、10年近く一緒に過ごしてきた。時々おせっかいなところもあるが、僕の一番信頼できる友人であり、最強のビジネスパートナーだ。
「さ、いよいよ時間が迫ってきた。京介、僕は康市の車で行くから、お前は佐藤君といっしょに行ってくれ」
「おう、分かった。じゃあ、プレゼン会場で落ち合おう」
京介は、浮かれた佐藤を引っ張りながら、近くの立体駐車場の方へ歩いて行った。
「じゃあ、俺たちも行こうか。康市よ、ところでお前の車はどこにあんの?」
「俺の車っすか? そこのコンビニに止めてありますよ」
そういうと、康市は、僕の方など振り返らず、さっさと歩いて行った。こ・い・つ・はぁ〜やっぱり一度クンロク入れてやらないといかんな。
しばらく歩くと、コンビ二に着いた。
「賢一さん、こっちっす」
康市の方を見ると、シルバーのダットサントラックが停まっていた。
車の両サイドにファイヤーパターンが塗装されている。
おいおい。20世紀の暴走族じゃないんだから。大体、通勤に使う車かよ。
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