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長話になっても気まずいので、病室に名刺を残して、その場は後にした。それから2週間くらいたったころだろうか。

僕のオフィスに康市が突然やって来た。給料はいらないから、しばらくおいてくれとダダをこねたので、結局雇うことになった。

もう、あれから5年もたっているのか……。

「賢一さん、もうすぐ田村先生の所に着きますよ」

「ああ、ごめん」

「どうしたんですか?さっきからぼーっとして。何度話しかけても上の空でしたよ」

「いや、お前と初めて会った時の事を思い出してたんだ」

「初めて会った時のこと?」彼は、少し首をかしげながら答えた。

「まあ、いいよ。特に深い意味はないから」

胸ポケットから携帯電話を取り出す。ター坊の携帯に連絡を入れたら、事務所の前で待っていると返事があったので、そのまま電話を切った。

しばらくして、彼の事務所の前に着くと、ター坊と秘書の女の子が立っていた。車を停めて、ドアを開けると、ター坊が乗り込んできた。その後ろで、秘書の女の子が火打石でカチカチとやっている。

銭形平次かよ。思わず、「時代劇じゃないんだから」、と突っ込みたくなった。タカ&トシなら、オ・エ・ド・カ・ヨ〜。と突っ込んでいる所だろう。

ター坊は、そんなコッパズカシイことを、ほぼ毎日当たり前にやってるんだろう。頭を下げてる女の子に何か指示を出すと、ダットサンに乗り込んできた。

「ター坊、悪いね。うちのプレゼンのために時間割いてもらって」

「どうでもいいけど、この車、車高が高いぶん、見晴らしはいいけど、3人乗るとさすがにせまいな」

「すいません。もともと二人乗りの設計なんすよね。ダットサンって」

「まあ、たまには、こういうのもいいじゃん」僕がそう言うと、ター坊は少し微笑んだ。

「ところで、今日のプレゼンは大丈夫なの?」

「ああ、資料もきちんと揃えてあるし、偉いさんの前でのしゃべりは、京介がやるから」

「京介って……、早見京介? 中学の時、2組だった早見京介?」

「そうそう。京介とは小学校からずっと一緒なんだ。ギャング経由で、同じ仕事までやるハメになった。どうやら腐れ縁らしい」

「ひょっとすると俺もかもな」ター坊が微笑みながら言った。

「いや、運命だよ」

「何、コッパズカシイこと言ってんだよ」

コッパズカシイのは、お前が女の子にやらせてる火打石だ。そう思ったが、心の中で突っ込むだけにした。

「そうか、京介もいるのか。今日はある意味同窓会みたいだな。俺も、お前の会社をできるだけ推すからさ、さっさと受注を決めて、同窓会といこうぜ。時間も迫ってる。康市君、悪いけど急いでくれるかな?」

ター坊の言葉を聴くと、康市は早速車を出した。


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