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僕は犯罪者になってしまった。いや、ただの犯罪者じゃない。殺人者になってしまうかもしれない。そう心の中でつぶやくと、なんだかとても重たく憂鬱な気分になった。
警察署での対応はひどいものだった。パトカーから出されると、手錠を掛けられたまま、取調室に連行された。
弁護士を呼ぶ権利があることなんて教えてもらえないまま、あっという間に調書が作られて、拇印を押されてしまった。
「とりあえずは、2日ほど泊まっていってもらうことになるから、そのつもりで」
「僕はどうなるんですか? 刑務所行きなんですか?」
「さあ、警察はそこまでは決められないからね。俺たちのできることは、もう一度取り調べをして、君を検察庁に送るだけだ。後の事は検察官が決める。君に殴られた子が訴えれば傷害で送検することになる。もっとも、怪我が怪我だから、殺人未遂で送検するかもしれないし、あのまま死亡すれば、殺人罪で送検することになるだろうな。
そしたら、起訴されて、10年ほど刑務所で過ごすことになるんじゃないか。ま、いずれにせよ、こっちにしてみれば、街が静かになってありがたいよ」
刑事にそう言われた後、地下の留置所に入れられた。鍵がかかった鉄格子以外には、薄い毛布しかなかった。したがないので、毛布にくるまったが、眠れない。ようやく、うとうとしたのは、朝方だったのを覚えている。
「栗原、おい、栗原」
翌朝、大きな声で呼ばれて、目が覚めた。留置所係りの警官が僕の名前を呼んでいた。
「栗原、出ろ」
「検察庁に送られるんですか?」
「釈放だよ。被害者の親御さんが、告訴はしないそうだ」
「あのガキ、いや、彼は大丈夫だったんですか?」
「出血はひどかったが、軽い脳震盪だけですんだらしい。元はといえば、あちら側が君のお金を盗んだんだからな。
それに、君は興奮して覚えてないみたいだが、先にあちらの方が殴りかかったらしい。目撃者が出てきたよ。本来なら過剰防衛になるんだが、状況が状況だけに、送検は見送られることになったそうだ」
「助かった」
「良かったな。これに懲りて、もう短気は起こすんじゃないぞ。この国は法治国家なんだ。短気を起こして熱くなったやつは、どんな正当な言い分があっても必ず干されるんだ。よく覚えておけ」
その言葉は今でもよく覚えている。熱くなったら負け。その通りだ。あの夜、学んだ大切なことがあったとしたら、そのことだろう。
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