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知らなかった。僕もター坊も、初めて聞く裏側の話で驚いた。
中坊のころは、一番館のシェフは呪われて死んだから店がつぶれたとか、いろんな話があったけど、こんな裏話があったんだ。
「ほら、野球も三番バッターから調子が出てくるじゃないですか。いろいろあったけど、これでよかったんですよ」
彼女の笑顔はどこか切ないようにも見えたし、なんだかすごいことを達成した充実感に溢れているようにも見えた。地獄の中から天国に上り詰めたような笑顔だ。
「そんなことよりも、栗原さんは、今やカリスマIT社長なんだから、うちに出資を考えてくださいよ」
「僕のこと知ってたんですか?」
「この街一番の元気のよかった子が、新しいことを始めたら、すぐ噂になりますよ」
彼女は笑顔でそういった。視線を移すと、ター坊が、必死で笑いをこらえていた。
なるほど、世間は、相変わらずくだらない話題で盛り上がっているみたいだ。
「まだまだ若造なんで、出資するお金なんてないですよ。それより、世界中の女性をメロメロにする自信はありますよ。今から不思議な呪文をとなえたら、お姉さんもメロメロになるかも」
「それじゃ、まだライオンになれそうじゃないわね」
彼女は、そう言うとまた軽く会釈をして微笑んだ。そして、テーブルを離れて中庭を出ていった。
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