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保釈


「507号、いや、栗原さん。釈放です。荷物をまとめてください」

食事を手早く済ませた後だった。刑務官に付き添われて出口へ向かう。

どうやら、マスコミ対策のために裏口から出されるようだ。

出口のドア付近にたどり着くと、沢木弁護士の顔が見えた。

「おはようございます」

僕が挨拶をすると、彼はにこやかな笑顔をつくり話だした。

「おはようございます。しかし、本当によかったですね。保釈金が2億円もかかりましたが、何とか外に出られるようになりましたね」

「有難いですが、2億円はもったいないですね」

「いやいや。あのお金は、あなたがきちんと裁判を受ければ戻ってきますから。いわば、身代金の様なものですよ」

「そうなんですか。それは、よかった」

弁護士と会話をしながら出口のドアを開けると、ワゴンが1台止まっていた。車のドアを開け、荷物を積み込むと、僕と沢木弁護士は後部座席に座った。

沢木弁護士が運転手に指示すると、やがて僕らを乗せた車がゆっくりと走り始めた。

拘置所の裏門の前まで来ると車を止め、刑務官にチェックを受けた。

ゲートが開いて、僕らを乗せた車が拘置所の前の車道に出る瞬間、カメラマンらしき人が3人程見えたが、他のマスコミ関係の人は全く見当たらない。

僕は、とっさに沢木弁護士に尋ねた。

「先生、今日は思ったよりマスコミが来ていないようですね。どうしたんでしょう?」

「そうですね…。おそらく、有名芸能人の薬物事件で世間が盛り上がっているので、そちらへ流れたのでしょう。世間の人は、もう、あなたの事なんて忘れてますよ」

「薬物事件?」

「ええ…。人気タレントが2人が、別々に薬物事件を起こしたんですよ。それで、女優さんの方が逃走劇を繰り広げたりしたもんだから、世間はそちらに目をやったわけです」

「そ、そうなんですか…」

「まあ、世間ていうやつは、そんなもんなんじゃないですか」


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