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僕がその書類をしばらく見ていると、彼が話し出した。

「栗原さん。その書類は、ちゃんと取り調べに同意したかを証明するものであって、あなたが罪を認めたというものではありません。サインしても何も問題ありませんよ」

「本当ですか?」

「はい。あ、それと日付も記入して下さい」

僕が書類にサインをすると、彼は、その書類をファイルの中にしまった。

沈黙の時が流れる。

しばらくすると、彼は突然立ち上がり、僕に背を向け窓の方を見ながら話し出した。

「しかし、この国は本当に狂ってしまいましたねぇ〜。どこを見渡しても滑稽な事ばかり見えてくる」

「ハイ、まあ…」

「いつから、この国の人間は利益と権利を主張するだけで、何も出来ないズル賢い連中ばかりになってしまったのでしょう。そう思いませんか、栗原さん?」

「そ、そうですね…」

「いや、私達の世界もあなた方の世界と同じで、実は何もかもが腐敗しています。ただ、誰も口に出して行動しようとする者がいないだけです」

再び沈黙が続く。

しばらくすると彼は、振り返ってまたイスに腰掛けた。そして、ゆっくりと話し出した。

「栗原さん、ここのルールはただ一つだけです。本当の事をすべて話して、早く罪を認める事です。私達、地獄の番犬ケルベロスには嘘は一切通用しません。それから、これは私一個人の意見だが、私はあなたのようなズル賢い人間は地獄に落ちてしまえば良いと思ってます」

「はあ、なるほど。そうですか…」

「私の私的感情はさておいて、あなたも早く裁判を終わらせて、社会復帰したいでしょう?」

「まあ、それは、そうなんですけど…」

「いいでしょう。今日は、これで終わりにします。では、また御自分の房に、お戻りになってゆっくりと考えて下さい」


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