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「そうですか。とりあえず、まずは一杯どうですか?」

「いえ、私達は遠慮させていただきます」

「そうですか…」

彼は、少し残念そうにグラスに酒を注ぐと、天井を見上げた。前回会った時が、修羅場だったたけに、拍子抜けした気分だ。

何を考えているのかさっぱり分からない。なにしろ普段から、防弾チョッキを着ているようなヤツだ。

油断しちゃまずいだろうな。

「あの……。電話の件なのですが、よろしいでしょうか」

「ああ、そうでしたね。では、私の条件をのんでもらえますか?」

「条件?」

「いや、条件と言っても、そんなに難しい事じゃありませんよ」

「と、言いますと?」

「あなたが保有している富国電気の株を、少し譲っていただきたいんですよ」

「なんだかきなくさい話ですね」

「いえいえ、至極真っ当な取引です。市場ルートを介して取得しようと思っていますので、そちらには、御迷惑をかける事はありません」

「どのくらいの数を?」

「あなたがお持ちの2パーセントの株を、証券会社を通じて売却していただきたい。私は、市場に出た御社の株を購入する。ただ、それだけです」

上原は、表情を崩さなかった。グラスを傾けた瞬間、口元が緩むのを僕は見逃さなかった。

「なるほど、僕が持株の2パーセントを手放すことによって、儲けられるように玉を仕込んでいるみたいですね。僕の持株の2パーセントとはいえ、数万株にはなるから、市場に出せば、ほんの一時株価が下がる。

カラ売りをして、株価の底値で拾って利食いして精算した後、可能な限り底値で株を購入するというところですか」


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