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まあいい。もたもたしている場合じゃない。
おもちゃを買うために、中野まで出張ったわけではない。
ダッシュボードにキン消しをしまうと、富国電気に向けて車を走らせた。
わざわざ、午後出勤にして、こんなものを買いに来たのは意味がある。
僕が今置かれている状況を、京介だけに確実に伝えたかったからだ。
キン消しは、京介と僕だけのガキのころからの暗号みたいな物だ。
互いにキン消しを見せ合うだけで意思の疎通ができるのだ。
ロビンマスクは、「いい女見つたけよ」というサインで、阿修羅マンは、「ヤバイ奴に出くわした」という合図だ。
会社に行って京介の机の上に無言で2個置いたら、あいつビックリするだろうな。
もっとも、ガキの頃の暗号を覚えてくれていればだけど。
理香の事は後日でもいいが、マフィアの上原和輝の件は、どうしても誰にも気付かれずに京介に伝えないといけない。
メールや電話が盗聴されているかも知れない状況下のなかで、京介に上原のことを伝えるには、この方法しかない。
暴走したCOLORプログラムが、僕たちを狙うことだってじゅうぶんありえる。
「ガキの頃のことを覚えてくれてるよな。お前はダチだもんな」
富国電機の目の前までくると、できるだけ平静を装って、警備員に挨拶し、車を駐車場に滑り込ませた。
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