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「怒りの炎?」
「そう。怒ったり、人をねたんでばかりいると、自分の中の悪意が炎になって自分自身を焼き殺しちゃうていう、お釈迦さまの言葉だってさ。
死んだバアちゃんがよく言ってた。気の毒だけど、サダは自分でそのことに気づくしかないんじゃないかな。30近いのにあんなことやってると、それこそ身を滅ぼしちゃうしね」
ヤスオの言葉は、心に響いた。涼しげな笑顔を見せているヤスオの横顔を見ながら、もう一度心の中でヤスオに詫びた。
ヤスオとくだらない話をしながら、三番館に向って歩いた。どうやらヤスオは、三番館に何回か行った事があるらしい。
そりゃあ、そうだよね。この街の人間なら、一度は親に連れてきてもらうから。誕生日とかに利用する家も多かったし、どんなに経済的に苦しい家でも、入学式とか就職祝いに利用することは普通だった。
そういえば、京介はオヤジさんから連れてきてもらったことがなかったって言ってたよな。
他の友達が当たり前のように、親から三番館に連れていってもらえるのを見ながら、京介は何を考えていたんだろう。今はおくびにも出さないけど、辛かっただろうな……。
ほどなくして、三番館に着いた。ちょうど日の光が落ちたせいもあって、店先には明かりが灯っていた。ドアを開け店の中に入ると、店内は客であふれかえっていた。
さっきのシャッター商店街のような暗い雰囲気はどこにもない。富国電気の本社ビル近くのレストランに入ったような気分だ。
そういえば、地元の人間らしき人が少ない。ネクタイを締めた連中がたくさん席を陣取っているから、たぶん、オフィスビルで働く人たちなんだろう。この前、美森に出張してきた時は、そんなことはなかったから、客層が変わったってことか。
どうでもいいけど、僕が子供のころ、特別な日にしか連れてきてもらえなかった店が、サラリーマンが夕食を取る場所になっているっていうのも、すごく複雑な気分だ。
ウエイターに声をかけようとしたが、忙しすぎるらしく、全く気づいてくれない。そのうち、店の奥からマダムがやって来た。
「お待たせして申し訳ございません。お久しぶりですね。今日は、お二人様ですか?」
「はい。今日は、奥のオープンガーデン空いていますか?」
「あいにく今日は、お客様が多くて、店内の席しか空いていないんですが……」
「そうですか。かまいませんので席をお願い出来ますか?」
「かしこまりました。それでは、御案内いたします」
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