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「栗原、やるじゃねえか。お前も、すいぶん偉くなったもんだな。シャア〜。それじゃあ、こっちらも本気出させてもらうぜ」

山岡が、ゆっくり立ち上がろうとした瞬間、僕は彼の顔面を、おもいっきり蹴った。サダは、再び床にはいつくばった。僕は、彼の側に近づくと大きな声で怒鳴った。

「もう、テメエなんぞは怖かねえんだよ。今度、俺らに近づいたらテメエ、ゼッテ〜殺すからな」

彼は、倒れたまま震えていた。情けない。こんなヤツに僕はおびえていたのか。サダは、僕の言葉に震えて何も言えなかった。

「おい、ヤスオ。そろそろ行こうか?」

「そうだね……」

ヤスオは、素早く僕より先に店を出て行った。追いかけてこないか気になって振り返ってみたけど、サダはうずくまったまま立ち上がれないみたいだった。どうやら相当こたえたらしい。

10年ぶりに心の隅に抱え込んでいたトラウマが消えていくのを感じ取れた。

それと同時に、どうして僕や京介がヤスオをいじめるようになったのか思い出した。

サダにいじめられるのが怖くてみんなで、ヤスオをいじめたんだ。そう、僕や京介、そうして多くの仲間は、ヤスオを見捨てたんだ。

こんな、カスの為に大事な親友を殺してしまうところだったんだ。今更どうにもならないことだけど、後味が悪かった。

僕が店を出るとヤスオが、照れながら少し小さな声で話しかけてきた。

「ケンチャン、さっきはありがとう……」

「ああ、うん……」

ヤスオの感謝の言葉は、僕にとっては後ろめたいものだった。僕は心の中でヤスオに謝罪した。こいつは、いじめられた事も、過去の辛い思い出として、忘れる時がくるのだろうか。もう、そうなってくれてるといいんだけど。

残念だけど、僕や京介や他の仲間達は、忘れることはできそうにない。あんなカスのために、彼をいじめた事について、ずっと自分の道徳心から責められるだろう。

「ケンチャン、どうしたのさ?」

「いや、何でもない。サダもなんだか哀れに思えてきてさ」

「ケンチャン、怒りの炎は自分の身を焼き尽くすって言葉、知ってる?」

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