[携帯小説 COLOR]
→【オススメ】←
人気携帯サイト
仕方がないので、携帯でタクシーを呼んだ。5分ほど家の前で待っていたら、タクシーがやってきてくれた。
「駅前でいいんですよね」
「はい、お願いします」
ひょっとすると、この前、美森に出張してきた時に乗り合わせた絵描き志望の運転手に会えるかなと思ったけど、違った。
50過ぎのリストラされたっぽいおじさんだった。あの運転手さんはどうしただろうか。絵の勉強をしてたけど、ずるずるになってたとか言ってたな。看護師の奥さんに食べさせてもらうのがいやで、タクシーの運転手になったと言っていた。
僕と会ってまた絵を描いてみるっていってたけど、どうなったかな。厳しい現実に飲まれていなければいいんだけど。
「まっすぐ行っていいですか」
「お願いします」
いきなり運転手に話しかけられて我に返った。サービス業にしてはやたら無愛想だけど、運転は丁寧だ。昨日、ふらっと入った食堂のオヤジを思い出した。そういえばあのオヤジさんも、こんな感じだったっけ。
みんな疲れた顔をしているのは、この街に何かを吸い取られていくからだろうか。人が減り始めたから余計にそうなのかもしれない。
そんなことを考えながら、流れて行く景色を見ていた。僕がおぼえていた昔の美森はどこにもない。
小学校の時の友人の家はほとんど無くなってテナントビルに変わっていた。代わりに、昔は田んぼだった場所が、住宅街に変貌していた。
そのどれもこの活気のない街にしては似つかわしくないこぎれいな建物ばかりだ。おそらく金を持ったやつが土地を買いあさり始めたんだろう。
これが、Mr,安倍ちゃんの美しき国プランなのか?まあ、ここまでくると、もはや個人の力じゃどうしようもない。地方自治体が音を上げるくらいの構造不況なんだから、これも成り行きを見守るしかないんだろうか。そんなことを考えたら、無性に悲しくなった。
それから、20分程度走ると駅の前のロータリーに着いた。料金を払い、タクシーから降りると駅の時計を見上げた。
午後4時40分を回ったくらいだ。少し、早く来すぎたな……。こんなことなら、もうちょっと実家の掃除をやっておけばよかったな。
ヤスオは、まだ見当たらない。時間つぶしに、駅から続く商店街の中をしばらく歩くことにした。しかし、どこの町でも、そうなのだろうが、活気が無い。
僕がITコンサルティングを立ち上げた時も、シャッター街だったけど、まだいくぶん違っていたように思う。活気どころかすっかり人の気配が失せてしまっている。いつからこうなったのだろう。
いや、ひょっとして日本中にこんな風景が広がっているんだろうか。
今は、考えても仕方がないことかもしれないけど。
[←][HOME][→]
i-mode総合検索エンジン
→【i-word.jp】←
(C)COLOR