[携帯小説 COLOR]

→【オススメ】←
人気携帯サイト

そえられたレンゲを持っておそるおそる口に運んだ。食器もかなり年期が入っていて、正直言って食欲をそそる雰囲気ではない。料理は意外にうまかった。

ということは、やっぱり人が減って商売が立ちゆかなくなったんだろうな。10分たらずで完食した後、勘定を済ませ店を出た。

ここから、ワンルームマンションまでは30分ほどかかる。タクシーに乗ろうかと思ったが、やっぱり歩くことにした。歩くたびに、さっきの食堂のような、うらさびれた風景しか飛び込んでこない。

懐かしのホームタウンに戻って来たのに、心の奥から虚しさがこみ上げてくる。麻美もこの街のどこかにいるのか。せめて誰か話せる人がいるといいんだけど。

ペコちゃんは連絡が取りづらくなっちゃったしな。麻美に至っては論外だ。新婚ホヤホヤの麻美のことを思うと、胸がしめつけられそうだった。つい、足取りも重くなってしまう。

麻美とアキラの結婚式の数日前に京介が僕に話した言葉が、今も耳にこびりついて離れない。「ほんとに好きなら是が非でも取り戻せ」……か。無理にきまってんじゃん。

ほんとは前日まで悩んだけど、横浜の中華街で見た麻美の笑顔が邪魔をした。

あきらかに、僕なんか眼中にないって感じだったからな。早く忘れよう。そんなことを考えてたら、ワンルームマンションの前にたどり着いた。

階段を上ると2階の自分の部屋に向かった。玄関の入り口まで来ると、ポストから手紙があふれ出ているのに気付いた。

マンションは借りっぱなしにしてたけど、郵便物は東京へ転送してもらうように手続きしてたのに。何か手違いがあったのかな。

ポストの中から2〜3通、手紙を取ると、たしかに僕宛のものだった。理由はよくわからないが、私信はこちらに配達されているようだ。まあいい。玄関の鍵を開けて、中に入った。

部屋の電気を点けてみた。1年前と変わらない部屋だ。気分が和むのがわかった。

東京に行く時は、希望なんてなかった。叔父の会社に人質にされるようなものだったから。いつ都落ちしてもいいように、このマンションを借りっぱなしにして、最低限の家財道具は残しておいた。

まさか、かつての我が家が、出張時のホテルになるとは夢にも思わなかったけど。まあ正解だったな。

一年間放置していたのに、部屋の中はさほど汚れてなかった。

とりあえずリビングに腰を下ろして、手に持っていた手紙を見た。なんのことはない。悪徳詐欺業者からのダイレクトメールで、詐欺クレジットカード申し込みパンフだった。

[][HOME][]

i-mode総合検索エンジン
→【i-word.jp】←


(C)COLOR