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「俺だよ、賢一だよ賢一」

「あれ?お前か?美森に帰ってきたのか?東京に行ったって聞いてたけど」

「それよか、何やってんだ?こんなとこでウチのマドンナをたぶらかしてんじゃね〜よ。チュッパチャップスあげるから、クズはとっとと家に帰って寝なさい」

僕が、昔のノリで、冗談交じりに話すと、マサハルは椅子から立ち上がって吠えた。

「たぶらかしてね〜よ。オレラ付き合ってんだよ」

「え、マジ? どうやって騙したんだ?」

「てめえ、久しぶりに会ったと思ったら、妙な難癖つけやがって」

「やめてください」

突然、ペコちゃんが大声を出した。澄んだ高い声が耳に響いた。驚いた。彼女が話したのも初めて聞いたし、ましてや感情をあらわにした声を聞くのは初めてだったからだ。

「ペコちゃん、話せるようになったの?いや、なんでまた、こんなヤローと」

「賢一さん、ひどいこといわないでください。私、マサハルさんとお付き合いさせてもらってるんです。彼が優しく接してくれるようになってから、やっと人と話ができるようになったんです。それに、彼は私が本音で話しても一度も怒らないで話を聞いてくれるんです……これ以上彼のことを言うと、私本気で怒りますよ」

「え、これ…。いや、彼と…」

だめだ。取り付く島がない。ペコちゃんに抱いていた淡い気持ちがあっさり消えた。

僕とペコちゃんのやり取りを聞いていたマサハルが割って入った。

「まあ、そういう事なので俺らの純愛を邪魔しないでもらえます。それより、プリンスよ。ヤスオどうしてる?」

もうこれ以上、やりあいようがない。そのことがわかったのか、マサハルは余裕ぶっこいた話し方だった。ここはいさぎよく引くしかないな。しかたがないから、僕はマサハルに聞かれたままのことを答えた。

「ヤスオか?しらね〜よ。高校卒業して以来往信普通だよ」

「なに言ってんだよ。ヤスオはお前の会社にいるよ」

「俺のとこに?」

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