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「そういえば、京介、ここは始めてなの?プライベートとかでも来たことはない?」
「いや、ここは初めてだ」
京介は、気まずそうに答えた。そういえば、京介は、ガキの頃から、街中の目立つ店には足を運ばなかった。親父さんにやかましく、こづかれるって言ってたっけ。
京介のオヤジさんは昔、大手ヤクザ組織のヒットマンだった。だが、組織が分裂して弱小派閥の中にいた京介のオヤジさんは破門になり、美森市に逃げてきたのだ。
かなりヤバイ事件を起こして逃げてきたらしい。それで、街の噂にならないように気を使っていたのか、あまり派手な場所には近づかなかった。
小学校2年生の時に、引っ越してきたばかりの京介の家に遊びに行った時のことを覚えている。街はずれのトタン屋根で狭いうえに、妙に小汚い家だった。
おまけに、生活保護を受けていた究極の貧乏一家だ。
そんな胡散臭い奴に友達が出来るはずもない。僕もはじめは、彼の事が嫌いだった。
ボロボロのTシャツを着てるのに、ジャニーズばりのスマイルをぶつけて来るビンボッちゃまで、かなりウザイ奴だった。
だけどすぐに、彼の純粋な心や、人に対して優しさ注ぐ態度に、クラスのみんなは引かれていった。
京介のことは、町でも噂になった。不幸な身の上に負けない元気な少年という感じだっただろうか。オヤジさんも、さすがに京介のことを不憫に思ったらしい。
ヤクザ稼業から足を洗った後、しばらくは、用心棒がてらパチンコ屋の景品交換所の仕事をやっていたが、一年発起して猛勉強し、地方公務員採用試験を受けて、清掃局の職員になった。
京介はそれ以来、それなりの生活をしてきたはずだが、親友になった仲でも、話せないことがあったのかもしれない。
中庭入り口のドアを開けると、幾つかのテーブルに客が座っていた。
僕らは、以前ター坊と来た時と同じように、噴水近くのテーブルに案内された。
「じゃあ、メニューをお持ちしますので、少々お待ち下さい。」
マダムは、そう言うと、店の方に戻っていった。
「しかし、ほんとすげえとこだよな。美森に、こんな店があったのかよ」
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