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そりゃそうだろな。とりあえず真っ暗で何も見えないし、おまけに近くに敵が潜んでいるかもしれないからね。だから言ったんだ。ヤ・バ・イ・ゾって。
「思ったより、足元が悪いな」
ゴリが言った。康市が言っていた通りだった。獣道を歩くのはかなりしんどい。ところどころ腰まである草をかきわけないといけないし、平らな所でも、時々濡れた枯れ葉で足を滑らせそうになる。
進むたびに、枯葉を踏んだ音が、明け方の視界の悪い森の中に響きわたるので怖くてたまらなくなってくる。
しばらく歩くとゴリが立ち止まった。自分の腕時計のボタンを押す。液晶ディスプレイがやけに明るく光る。時間は、AM5:00ちょうどだった。
「ここで待機してろ。すぐにもどってくる」
「ゴリさん」
「質問は許さんと言ったはずだ」
ゴリはそう言うと、獣道から外れた草むらの方に歩いて行ってしまった。
僕も康市も黙ったままだった。沈黙が続く。時計を見る。そのたびに苛立つ。
こういう状況下の1分、1秒は地獄の釜で釜茹でになっているよりも長く感じられる。
「賢一さん、大丈夫ですかね? あのゴリラ帰ってきませんよ」
しばらく無口だった康市が、僕の後ろから小さな声で話しかけてきた。
「分かってる。でも、彼の事をゴリラと言うのはどうかと思うぞ。生物学的には人類なんだから、せめてゴリさんと呼んでやりなさい。帰ってきたら、ごほうびにバナナをあげなきゃな。モンキーバナナをよ。ウッキーとかいってよろこぶだろうな。朝飯もまだだし」
「ぷっ、ぷ……」
康市は噴出しそうだったが、両手で自分の口を覆って必死に笑いをこらえていた。
「ところで、バナナはおやつに入るのかな」
「おやつって……。遠足じゃないんすから。大丈夫じゃないすか? あ、おやつは300円までですよ」
「水筒に、ジュースは入れてきちゃいけないんだよな。紅茶とかはアリ?」
「ぎりぎり、アリです」
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