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切なかった。うれしかった。でも僕は、それ以上言葉を返さなかった。

「ゴリさん。急ぎましょう」

無視して行こうとすると、康市が叫んだ。

「賢一さん、ブルー・アース・プロジェクトの話は嘘だったんですか?」

「なんだと?」

「世界中の人たちが平和に暮らせるように……。俺みたいなニートや失業者を作らないで、みんなが裕福になれる社会を作るために、ブルー・アース・プロジェクト・システムを完成させるって豪語してたじゃないですか。

それが、はみだし者扱いされてきた俺たちが生きる意味だって言ってたじゃないですか。エリート街道まっしぐらの佐藤さんだって、その想いに惚れたから、大会社を蹴って、賢一さんの会社に入ったんじゃないですか」

僕は返す言葉がなかった。康市の言う通りだからだ。だけど……。

「俺は、もし賢一さんが死んだら、どうやって生きていっていったらいいんですか」

悲痛な叫びだった。路地裏のチンピラからIT企業の幹部になって、社会的な成功を収めた今、康市の周囲には、たくさんの人が集まっているはずだ。だけど、康市が本当に心を開いているのは僕だけなんだ。そのことがわかるだけに、余計につらかった。

僕らの会話を聞いていたゴリが、横から割って入った。

「栗原、友情ごっこをやってる暇はないぞ。先を急ぐ。ついてこい」

「うるせえ、だまってろ」

一瞬の出来事だった。康市はジャケットの内側からナイフを抜いて、ゴリに突き出した。完璧な間合いだった。だが、ゴリの左胸に刺さると思ったナイフは、あっさりゴリの手にはねのけられて、宙を舞った。全く無駄のない動きだった。

素人目にも、訓練された人間だけができる動きだということが分かった。康市もそのことを一瞬で悟ったらしい。それ以上、ゴリに抵抗はしなかった。

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