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それは熱くツライ旅立ちだった

佐々木常務の説明が終わると会議は終了し解散となった。

僕とゴリも退散しようとしたが、佐々木常務に呼び止められた。

「河島君と栗原君は、もう少し残ってくれ」

佐々木常務の呼びかけに、また元の席に着席すると、ゴリは、会場のドアをロックした。

会長であるオジサンと、島田社長と関口専務と佐々木常務が着席した。そして、僕とゴリが着席すると、しばらく沈黙が続いて、オジサンが口を開いた。

「賢一、お前に話しておかなければいけない事がある。最後まで黙って私の話を聞いてくれ。私とお前の父親は実は美森市で生まれてはいないんだ」

「どう言う事ですか?」

「黙って最後まで聞きなさい。私達兄弟は実は戦前の広島で生まれ育ったんだ。あれは、昭和20年8月6日の朝だった。私は当時4歳で義明兄さんは9歳だった。当時は戦争中で、空爆も盛んだったが、そんな生活に慣れてしまっていてね。私と兄さんは、いつものように朝食をすませると二人で散歩に出かけた。

その日は家から遠いところまで歩いて二人で遊んでいったんだ。ところが、突然原爆が投下されて街が壊滅状態になった。私達兄弟は、急いで実家に戻ったが家もなくなって両親もいなくなっていた。

兄さんは、以前から父親に、近隣を調べても両親の所在が確認出来なかった場合は、庭に埋めてある鉄缶箱を掘り出して、中にあるお金を持って美森市の私達の祖父母の家に行けといわれていたらしい。結局そうすることになった。

私達は、被爆地域よりも遠い場所にいたので怪我はなかったが兄さんは街は地獄絵のようだったと言っていた。義明兄さんは、私をおぶって何日も眠らずに歩いてやっと汽車が動いている駅までくると、それに乗り込み美森市までやって来た。私は、まだ幼かったのか、その頃の記憶はあまりないが、焼け焦げるようなにおいが兄の背中の向こうから漂ってきていた記憶だけは、脳裏にこびりついている。

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