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「ありがとう。助かりました。おっと」
何なんだろう。人間とは時として突然とんでもない事をしでかすものである。彼女のメガネが少しずれたので、手を伸ばしたらメガネの隙間から可愛らしい瞳が参上した。僕は、思わず彼女のメガネを取ってしまった。
う〜ん、スィートベイビー&クールビューティーといった感じだろうか。三億年前の、少女マンガのパターンだ。こんなことが実際あるんだな。切羽詰った状態の中に天国を見た気分だ。
「あの、メガネ……メガネ返してもらえませんか?」僕が見とれていると、彼女は恥ずかしそうにいった。
僕は慌ててメガネと一緒に、ポケットの中のプライベート用の名刺も一緒に手渡した。「すいません。じゃあ、ホワイトボード借りて行きますね」
そうだった。こんなことしてる場合じゃない。急いで七階の小ホールに向かった。
小ホールに戻ると、すでに他の業者がプレゼンテーションを始めていた。大型のディスプレイに華やかな映像が踊っていた。薄暗い中、前かがみになって、ホワイトボードをかかえ、僕の席を探した。
京介が僕に気づいたのか、赤いレーザーポインターでサインを送ってくれたので、素早く席に着くことができた。
「康市からの連絡は?」京介が尋ねてきた。
「まだだ。オフィスに戻ったという連絡はメールでもらったけど、その後は連絡がない。こっちに向かってるのは間違いないんだけど」
「しょうがない。それまで時間をつなぐしかないな。で、賢一の作戦って何なんだ?」
「これこれ、ホワイトボードを借りてきた。これで時間をつなぐ。今から説明するよ」
佐藤と京介が耳をそばだてた。
「とりあえず、康市が戻ってくるまで、プレゼンの概略をこのホワイトボードに書いて説明するから、お前らは出来るだけフォローしてくれ」
「お前、それでイケルのかよ〜」
「それしかないだろう。何もやらないよりはましだ。今まで修羅場をくぐってきた仲だろ? 腹をくくろうぜ」京介は、何も言わずに汗をしきりにぬぐっていた。こうなったら、もう、自分を信じるしかない。
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