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そのまま会社に居続ければ、いずれは社長クラスの存在になれるだろう。彼の両親や親族は、何度も考え直すように説得したらしいが、本人の意思は変わらなかったようだ。
僕には、その理由がよく分かる。
自分の人生だからリスクも成功の可能性も、自分の意思で背負いたいのだ。自分は、親や親戚連中の面子の為に生きているわけじゃない。佐藤は、一流企業の門を叩いたものの、ほんとに自分の進む道が会社の中にないと判断したのだろう。
よく考えれば、一流大学を出るという順風満帆な出世コースにも、いくつも落とし穴がある。
大手企業の社員になったり、国家公務員試験T種に合格してキャリア官僚になっても、40代の出世競争に負ければ、全く意味がない。下手すれば、自主的な退職を迫られるか、リストラの対象になって、路頭に迷うことになりかねない。
もし、そうなったとしたら、その時、何を考えるだろうか。
想定していなかった事態を、親のせいだと、ののしるだろうか。もしそんなことが許されたとしても、親はとっくに年老いているし、世間は、いい年して子どもじみたことしかできない敗北者だと笑うだけだろう。
そう、だれも自分の人生の責任は取ってくれないのだ。
くだらない大人達が作り上げたレールに沿って歩いても、その先に何があるのかわからない。どこまでも続いていると信じていたレールが脱線している可能性だってあるし、途中で無くなっている可能性だってある。
大人が言う安定なんて、ただの幻想だ。本当は、明日はどうなるかだってわからないのだ。結局、未来のリスクも可能性も、背負うのは自分なのだ。
佐藤は、そのことに気づき、僕の会社を選んだのだろう。
そう、人生の再スタートの場所に。それは正解だったと思う。
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