そう思っていると、京介が小麦の形をかたどった彫刻を手に取った。
「賢一、これじゃないか。石台の上に置くと開くっていう像は」
「そうだな、お前がそう思うならそれでいいよ」
「じゃあ、石台に置くからな」
ヤスオは、壁の彫刻を見つめたまま考えている。
京介が、彫刻を石台の上に置こうとした瞬間、ヤスオが叫んだ。
「ちょっと待って」
「なんだよ、なんかあったんか?ア〜ン」
京介が、めんどくさそうにそう答えた。
「いや、こっちの母親が赤ん坊を抱っこしている像の方がいいかなと思って」
「う〜ん、そう言われるとそうだな。小麦ってたしか、キリスト教で神様がくれる食べ物の象徴だけど、強欲っていう意味でもあるんだよな」
「発酵したパンの生地はどんどん膨らむから、強欲の象徴だっていう話を聞いたことがあるよ」
「なるほど、だとしたら、赤ん坊の像の方がいいかな。賢一、どう思う?」
「え、僕。僕はまるっきり分からないよ。でも、今日はヤスオが当たってるんで、ヤスオでいけば?」
「じゃあ、ヤスオ、そいつを石台の上に置きな」
「え?、でも」
ヤスオは少し驚いたようだ。
「お前に賭けるよ。そして、このままここに閉じ込められて、三人仲良くミイラになって、人体の不思議展に並ぶってことで」
「縁起でもないこといわないでよ」
赤ん坊の像をかかえたまま、ヤスオが弱気な声を出した。
「いいから置けよ。このまま待っててもどうしようもねえ。それこそ窒息してあの世行きだ。俺はもう腹をくくったぜ」
京介がそう言うと、ヤスオは、母親が赤ん坊を抱っこしている像を石台の上に置いた。
すると、石台が右に動き人一人通れるくらいの通路が現れた。中は、暗くて何も見えない。
「どうやら助かったらしいな」
「ああ、でも前に進むしかないみたいだぜ。賢一、見てみろよ」
京介に言われて後ろを振り返ると、入り口は、まだ塞がれたままだ。
しょうがないので、通路に足を踏み入れる事にした。 |
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