ずっと独りの朝を繰り返してきたから、家の中で、誰かの声を聞くことが、とても不思議に感じる。
「あり合わせのものでゴメンネ」
「いや、かまわないよ」
お世辞にも、美味そうといえる代物ではない。トーストとハムエッグとポテトサラダ。そして、インスタントのコーヒー。本当にあり合わせの朝食だ。
それでも、僕はうれしかった。誰かと一緒に食事を取ることが、こんなに幸せなことだとは思わなかった。少しだけ涙がこみ上げてくるのを感じた。
そういえば、母親が亡くなってからずっと、僕のために真心をこめて料理を作ってくれた人なんかいなかったな。
「ケンちゃん、どうしたの?食べよう。冷めちゃうよ」
「そ、そうだな。じゃあ、いただきます」
理香にうながされて、テーブルに着いた。トーストを食べながら、片手でテレビのリモコンを握り、電源を入れた。
相変わらず、みのもんたが朝から吼えている。実にくだらないが、ついつい見入ってしまうのが、この人のすごさなんだろうな。食事を終えて、ついつい見入っていると、片づけを終えた理香が話しかけてきた。
「ケンちゃん。今日、ケンちゃんの車で会社まで一緒に行っていいよね?」
「実は今日ちょっと午前中に用件があるんだ。駅までしか送れないけど、それで勘弁してもらえるかな?」
「用件?」
「そ、そう。ちょっと買い物があるんでね」
「ふ〜ん。じゃあ、しょうがないか。じゃあ、出かける支度しよっか」
別々に着替えて部屋を出ると、駐車場へ向かった。
車に乗り込み、エンジンをかけると、理香が助手席に乗り込んできた。やっぱりいつもの朝と違って、なんだか不思議な気分だ。
マンションを後にしながら、他愛のない会話を弾ませる。駅前のロータリーに入ると、理香を降ろした。
「バイ・バイ・キ〜ン」
「古(ふる)〜。今時バイ・バイ・キ〜ンって。なんか久方ぶりに聞いたな」
「じゃあね、ありがとう」 |
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