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「栗原、何をもたもたしてるんだ」

「今すぐ行きます」

みんなにきちんとわびたかったが、ゴリに呼び止められたので、慌てて、エレベーターに乗り込んだ。

今日は、定例役員会だ。会社法の規定があるので、名ばかりの取締役である僕も出席しなければならない。どうせ議事録どおりに進行するだけなのに、かったるい話だ。

エレベーターが開くと、僕とゴリは、大会議室のドアを開けて、所定の席についた。

既に他の役員連中は、席についている。もっとも普段、何も業務をしない人達だから、暇を持て余しているってところなんだろう。まあいい。

どうせ議事録を作るだけなんだから、さっさと終わらせて緊急対策課に戻って仕事をしたいんだけど。ゴリと僕だけが苛立っていた。明らかに周囲から浮いているのがわかる。

ゴリは、黙って腕組みをしたまま、前を見ている。あきらかに苛立ってる空気がぷんぷんにおってくる。それを感じ取った他の役員から失笑がもれた。

どうせ焦ったって始まらない。会議は、終了するまで離席することが許されない。僕は、携帯電話をマナーモードにして、麻雀ゲームを始めた。ちょうどゲームを始めた直後、役員が全員揃ったので会議が始まった。

ほうっておこう。僕が発言するチャンスなんてない。年寄り連中が決めた事について疑問を投げかけたり、議論を交える事など許されないからだ。僕は机の下の方に携帯電話を隠すと、麻雀ゲームを続けた。

どうでもいいけど、重役の爺さん連中は、この会議が各セクションの業務能力を低下させている事に、まったく気付いてないんだろうな。

携帯の麻雀ゲームに夢中になっていると、誰かが僕の目の前に資料を置いた。続いてゴリの方に資料を置いた。少しだけ顔を上げて、横目でチラ見すると秘書課の女性のようだ。

あれ、この子、どこかで見た顔だな……。美森で一緒に過ごした理香って子に似てるな。まさかね。彼女がここにいるわけないか。

僕は、また携帯ゲームにのめり込んだ。ほどなくして会議が終わり再び顔を上げると会場の皆さんが退席しはじめるところだった。

「連絡事項に等しいことなら、社内メールで回覧すればいいじゃねえか。なあ、栗原」

ゴリが、不機嫌に僕に話しかけた。

「無理なんじゃないですか。メールどころか、うちの会社が何を作ってるのかもよくわかってない人達ですから。そんな爺様連中に、メールの打ち方教えるってのが無理ってもんですよ。連絡事項をプリントして回覧してもいいんでしょうけど、自分たちの存在意義を示したいんでしょうから、それもやらないんじゃないですか」

「確かにな。それじゃあ、俺達も行くか……。ただでさえ仕事が遅れているのに迷惑な話だ。もっともそのことを他の課の連中に話せないのが辛いところだが」

ゴリに続いてエレベーターに乗り、緊急対策課に戻った。また淡々と仕事をこなしたが、結局全く進展がなかった。疲労もかさみはじめていたので、定時になると、佐藤や康市たちと一緒に帰宅した。


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