無料オンライン小説 COLOR 愛と友情の讃歌



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タクシーとバスのいいとこどりみたいで、ある意味便利な乗り物だ。バスが走り去ったら急に静かになった。目の前には懐かしい実家がたたずんでいた。

久しぶりに戻ってきた実家は、なんだか悲しかった。僕はこの家で生まれて育ったけど、もうここには誰もいないのだ。錆びた門扉がきしむ音を出した時、そのことを強く感じた。

でも中は違った。鍵を開けて玄関の中に入ったら、やっぱり僕が生まれ育った場所だった。いろいろなことが胸の中を通り過ぎていくようだった。一番強く感じるのは後悔する気持ちだ。

高校を出て定職にもつかず、ブラブラやるようになると、オヤジは僕を勘当した。再びこの家の敷居を跨いだのは、オヤジの葬式の時だった。

あの時は親戚連中から白い目で見られた挙句、罵声を浴びせられた。もっともと言えばもっともだけど、辛かったな。おまけに、「オヤジが死んだのは僕のせいだ」みたいな事まで言う奴がいる始末で……。まあ、仕方ないけど。

でも、親孝行出来るやつなんて世間広といえども、やたらめったらいるもんじゃないよ。いくら努力したってはい上がれない奴だっていっぱいいる世の中なんだ。こうやって凱旋してきたから、チャラだよな。

茶の間の仏壇の前に立つと、ほこりまみれになっていたので、慌てて掃除を始めた。

いらないものを、ゴミ袋につめて、部屋がある程度落ち着くと、ゴミ回収業者に電話して回収依頼をした。

運良く手が空いていたらしい。あと1時間くらいで来てくれるようだ。

せっかくだから、全部片付けたいけど、ヤスオとの約束もあるし、これ以上は無理だ。きりのいいところにしておこう。僕はタバコに火をつけて一服すると、仏壇の前に正座した。

遺影をハンカチできれいに拭いた。線香に火をつけ、両手を合わせ、両親の冥福を祈った。そして、生前言えなかった、数ある親不孝について謝罪した。

不思議なものだ。両親が側にいるような気がした。目を閉じているぶん、それだけはっきりといろいろなことが感じられる。

子供のころ、両親と一緒に楽しくすごした夕食の風景が目の前に飛び込んできた。

笑いながらビールを飲むオヤジ。食べ残しをするなと怒るオフクロ。あのころと同じじゃないけど、僕は家に帰ってきたんだ。そう思ったら、閉じたままの目から涙がこぼれた。

気がつくと、誰かが玄関のチャイムを鳴らしている。出てみると、回収業者のオジサンだった。ゴミを引き渡し料金を払い、玄関の鍵を閉めると駅に向かう事にした。

実家の敷地を出る瞬間、心の奥底でつぶやいた。

僕は、今じゃ下町のプリンスだから、安心して眠って下さい。父上様、母上様……。

駅へ向かい歩いていたが、次の美森ふれあいバスがやってくるには相当時間がある。バス停だけじゃなくて、どこでも乗り降りできるのは便利だけど、赤字の第三セクターだから運行本数が少ないのだ。


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