「そうだな、もう、オフクロさんが死んで5年になるもんな……。そろそろ遺品の整理とかした方がいいよな」
「何かと忙しくて実家の方は放置したままなんでね。そう言えばヤスオ、お前も一緒に帰省しないか?」
ヤスオはゴリの顔を窺いながら、か細い声で話した。
「え?僕も休みを取っていいの?」
「バカ、聞こえるだろ」
「聞こえてるぞ」
ゴリは、書類に視線を落としたまま話した。
「お前らのいない間に庶務課のハゲネズミと話して、正式に彼の籍をこちらに移してもらえるように人事の方に頼んどいた。休みだが、好きにしろ。ただし、自宅待機処分にする。緊急事態が発生したら連絡するから、全員すぐに出社するように」
「ありがとうございます。緊急対策課の仕事は右も左もわかりませんがよろしくお願いします」
ゴリはヤスオの挨拶に、無言で首を縦に振っただけだった。山積みの書類を一人で片付けないといけないから、いちいちかまっていられないといったところだろう。
そうと決まれば速攻で退散するのが得策だ。僕たちは、机の上に投げ出したカバンをひったくると、体育会系の挨拶をして、オフィスを出た。休みがもらえることが決まったとたん、無愛想なゴリが理想の上司に思えてくるから不思議だ。
「じゃあ、とっととずらかろうぜ」
小声で僕がエレベーターのボタンを押すと、京介が、妙にいきいきとした顔になっていた。
「子供が生まれてから一度も家族サービスしてないんだよね……。とりあえず、ディズニーシーに行って、それから美森に戻ってお互いの実家に行って……」
京介は、やたらうかれていたが、独身貴族の僕らにはツイテイケナイ世界なので、ヤスオと2人でエレベーターに乗った。京介が慌てて後から飛び乗ってきた。
「おい、どうしたよ。おいていくなよ」
「いや、子供のためにテレビ台に保護シートつけるとか、オムツは紙より布の方がいいとか俺には興味ないから」
「冷てえなあ。まあ、いいや。久しぶりに休みがもらえたのはありがたいな。出張するたびにヤバイ事に巻き込まれっぱなしだったもんな」
思わずみんなから失笑がもれた。 |
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