考えてみると、日本人が冷静に物事の本質を見極められないのは、「原因はわからない-OR-答えはない=ダメ」という、教育を受けてきたからだろう。
「答えが存在する」というのは、あくまで学校で習う「おべんきょう」の世界の話で、社会や自然の中では、答えがないものはたくさん存在する。そもそも、何が問題なのかもわからないことも多い。
僕は、中学の時、数学が苦手だった。まるでパズルを解くみたいに、きちんと答えがでることが、うそ臭く見えたからだ。
それは14歳の少年の直感だったのだけど、間違ってはいなかったらしい。ITコンサルティングを立ち上げ佐藤が入社してきた後、僕の直感が正しいことを教えてもらった。
佐藤が言うには、中学校で習う関数や方程式のように、きちんと答えが出る数式は、広い宇宙の中で、地球のような生物が住んでいる星を探すようなものなんだそうだ。つまり、答えが導き出せる数式というのは、ほとんどないらしい。
そして、彼は僕にこう話した。
「僕がそのことに気づいたのは、大学を出た後でした。学校教育を受けた年数が長い人間ほど、社会に出て失敗してる人間が多いと思いませんか?自分に降りかかってくる問題は、一人で努力すれば解決できるという教育を受け続けたからですよ」
佐藤の言葉は衝撃的だった。その通りだ。ただ、あえていうなら、佐藤も気づいていない事がある。
たしかに、社会や自然の中では、答えが存在しないものや、何が問題かすらわからないものも多い。その逆に、答えがいくつも存在することも多いということだ。
「さ、ニコチンも補給したし、横浜へお出かけしますか。美森の時みたいに、修羅場が待ってるのかね」
京介は、半ば開き直っていた。
「週刊誌買ってきたの?」
「ひまつぶしにね。芸能人からAV女優に転身した女優特集に釣られました」
京介はそう言うと少し照れ笑いをした。結婚して子供が生まれたのに、どうやら性欲は衰えていないようだ。やれやれ。婚姻届の保証人欄に署名したけど、大丈夫かな。今度は、離婚訴訟で法廷に立たされたりしなきゃいいけど。
「あと1分くらいで、出るよ」
ヤスオが、ぼくの袖を引っ張ったので、京介と一緒に後に続いて電車に乗り込んだ。
ホームの混み具合にくらべて、電車の中は、さほど多くの人はいなかった。平日の昼間だという事もあるんだろう。ボックスシートが空いていたので、三人で陣取ると、電車が動きだした。 |
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