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ハゲは、扇子を開いて、仰ぎだした。何がまた今度だ。媚(こび)売って、次回の人事で昇進させてもらおうとか、姑息なこと考えてたんだろうが。そう思いつつも、京介を見習って、さわやかスマイルでその場を締めた。

「それじゃ、田畑君をお借りしていきます」

庶務課を飛び出すと、急いでエレベーターホールに戻り、緊急対策課に戻った。

「おい、ヤスオ。大丈夫だ。一緒に横浜に向かうぞ。庶務課の課長の許可を取ってきた」

「ほんと〜? あの粘着ハゲ……いや、厳しい課長がよく折れたね」

「まあね、それより、早速行動に移ろう。佐藤と康市は、司令塔として、ここに残ってもらいたい。ラボからの情報も続々飛び込んでくるだろうし、ひょっとすると、横浜に向かうまでに、何か別の対策方法が見つかるかもしれないからな」

佐藤と、康市は、ホッとした表情を見せた。美森市の件で、危ない話にはこりごりなんだろうな。気持ちはよくわかる。正直言うと、僕も行かなくてすむのなら、行きたくはない。

「京介、行くぞ。早く準備しろよ」

「オレ? 俺も行くの?」

「当たり前でしょうが。君が行かなきゃ誰が行くの。早く準備しなさい」

「いや、俺は司令塔としてだな」

「馬鹿こいてんじゃねえよ。お前が司令塔になるのは、飲み会の時だけだろうが。ごちゃごちゃ言わないで、さっさと準備しろ」

「うーん、僕は肉体労働って向かないんだけどねえ。仕事は現場が基本だし、ま、いいか。仕事は会議室で起きてるんじゃない。現場で動いてるんだってか」

京介は、さもかったるそうに、机の引き出しをあけてカバンやら何やらを取り出しはじめた。

「こら、京介、とっとと準備しねえと、チョーパン食らわすぞ」

「あたたた、髪の毛引っ張んなよ。昨日、美容室行ったばっかなんだから。わかったわかった、わかりましたよ。栗原次期社長」

佐藤と康市が、後ろを向いて、必死に笑いをこらえていた。癪だったが、かまってるひまはない。


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