日が差してきて、緊張がほぐれたのだろう。僕たちは話をしながら歩いた。無言を通していたゴリも話に加わった。
ほんとにくだらない世間話だった。でも、そうでもしないと恐怖感でまいってしまいそうなのを感じていたんだと思う。だが、それも数十分が限界だった。
再びみんな口を閉ざして歩くようになっていた。おまけに草が邪魔して歩きにくい。歩くたびに足が上がらなくなり、まるで足に重りがぶら下がってるようにつらくなってきた。
腰の辺りまで生えてる草をかき分けて、前進するのがたまらなくきつい。唯一の救いは、朝焼けらしき光が森の中に差し込み始めたことだった。時計を見た。AM:6:49分だ。今頃、みのもんたがTBSで吠えてるんだろうな。
そんなこと考えてる場合じゃないのに。そう思ったが、こんな事態に陥っても、人間という生き物は俗世間の事は忘れられないようだ。この期に及んでも、自分が置かれてる状況をどこかよその世界の出来事のように感じている自分がいる。
「止まれ」
ゴリが小声で告げた。僕と康市も声を殺して、その場で立ち止まる。ゴリが目の前の木を指差す。
「康市君、この木の上の方に枝に縛り付けられた赤いやつがあるだろう。取ってくれないか? この中で君が一番体重が軽そうだからな」
康市は、ゴリに言われた通り木に登った。そして枝に縛り付けられていた赤い手紙のような物を取って降りてきた。
「なんなんですか? それ?」
ジャケットについた枯れ葉を払い落としながら、康市はゴリに尋ねた。 |
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