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そしたら、いきなり商店街の会長に土下座されて話を切り出された。

「賢ちゃん、警察もヤクザの親分衆も手が出せない。このまま、ゆすられ続けたら、街ごとつぶれちまう。アキラを何とかしてくれ」

「なんとかって、そんなこと俺に言われても……ここまであいつらの頭数がふくれあがったら、ガキの喧嘩じゃ通用しないっすよ。それに、やつらと事をかまえたら、警察署長さんに迷惑かかるでしょ?」

「賢一、何か言ったか? 刑事時代は、俺も地獄耳と言われたもんだが、偉いさんになったら、どうもぼけちまったらしい。耳が遠くなってな」

「は?」

「いやなに、俺の一人言だが、ドブネズミが1匹死んだところで警察は動かないんだよなあ。市民の皆様から預かった税金を無駄使いするわけにはいかんしなあ。何が起きようと、鑑識に適当な書類を作らせるるのが関の山ってとこかな」

「は、はあ……」

「賢ちゃん、頼む。今までお前と京介たちを目の敵にしてきたことは謝る。金だって何とかする。もう一刻も猶予ならないし、アキラを何とかできるのは賢ちゃんしかいないんだ。この通りだ。商店街の会長として頼む」

「お前も人徳がついて回るようになったんだなあ。刑事時代は、少年課にさんざんぱらたたかれたもんだったが、お前に目をかけてきた甲斐があったよ」

「署長さん……」僕と警察署長のやりとりを、他のオジサン連中は黙って聞いていた。暗黙の了解だった。

アキラを殺しても警察は関与しない。キャリアの面子を潰したチンピラは排除しろという、合法的な暗殺命令が出たのだ。

「これを組から用意してもらった。それからこっちは俺の方で用意した」

商店街の会長から出された風呂敷包みを開けると、トカレフと万札の束が入っていた。

「最近のおもちゃは、よくできてるよなあ」

警察署長は、拳銃を手にするとそうつぶやいた。

「まあ、どのみち、明日になったら俺は忘れてるがね」そう言うと、警察署長は、拳銃を畳の上に置いた。

「賢ちゃん……」

商店街の会長は、土下座を崩さずに僕の方を見ていた。

「わかりました。これは預からせていただきます」

僕は、トカレフと万札をジャケットに隠すと、会合の場を後にした。

次の日から、アキラと僕の全面戦争になった。

とにかく頭数じゃ勝ち目がない。暴力で脅し、金で抱きこみ、アキラの組織の連中を引き抜いて骨抜きにした。

当時は暴対法の影響で、ヤクザのような非合法な生き方が難しくなってきていたので組織を抜け、堅気になろうとした人達は、キャッシュが必要になる。

僕たちは、ロシア製のトカレフや、予備の実弾と引き換えに彼らにキャッシュを渡して、武装を進めた。それを繰り返すうちに、僕と京介は、街外れの倒産した建設会社の資材倉庫を、アキラが根城にしているのを突き止めた。

深夜に京介から連絡をもらい、僕は建設会社の資材倉庫に向かった。


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