それだけじゃ終わらなかった。もう一度目を移すと、もっとショックな光景が目に飛び込んできた。彼女の横に男がいた。アキラだった。
間違いない。アルマーニに身を包んで、小奇麗にしているが、アキラだった。あの二人がどうして。いくら見ないように意識しても、彼らの方に目が吸い寄せられてしまう。
「おい、どうした?」
僕の様子がおかしいのに気づいたらしい。京介が声を出した。その声に気づいたのだろう。アキラが席を立って、僕達の方へ歩いてきた。
「京介じゃねえか? お〜。調子どうよ。あの時のこと覚えてる? 俺もボルト回したかったな〜」
アキラは、ふざけて工具でボルトを締める真似をしてみせた。
「こんなとこで会うとはな」
「おかげさまで、こっちもそれなりでさ。今日のプレゼンに参加させてもらうまでになったよ。ま、相変わらずお前のとこはチームワークばっちりで強敵みたいだが、こっちも頑張らせてもらうよ。よろしくな」
京介も気まずそうだった。できれば会いたくなかったのは僕と同じだと思う。僕たちは、元々同じギャング仲間で友人だった。いや兄弟と呼べるほどの仲だった。
僕らは高校卒業して定職にもつかず、とりあえず遊びまっくて金がなくなると、日雇いの仕事をする生活にどっぷりつかりきっていた。
金が無くなったある日、僕らは三人で土建屋の面接を受けにいった。日当1万2千円の仕事で、食事までついてくると先輩に聞いたからだ。
仕事内容は、高架橋の補修工事だった。
一人が鉄筋の向こう側からボルトを入れ、出てきたボルトの先に、ナットをはめ込んで回して閉めるだけの仕事だった。
もちろん、僕たちはとびついた。だが、それが三人の間に、亀裂を生むきっかけになった。補修工事は、二人一組の仕事で、誰か一人が降りなければいけないからだ。
「じゃあ、俺はいいわ。ボルトもナットも嫌いだし。汗まみれになるのは性に合わないし。まあ、二人ともがんばれよ」
アキラは、僕と京介にそう言うと、面接会場だった土建屋のプレハブから、そそくさと帰っていった。今思えば、その時、アキラを引き止めるべきだった。 |
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