ター坊との再会から2週間が過ぎ、何度かメールで打ち合わせをした後、見積もり書を持って、ター坊の事務所に出かけた。
オイシイ話には罠がある。会社が成長していれば、仕事の話を装って、怪しい連中も近づいてくる。ネット経由の新規の顧客なら、なおさらだ。
もちろん、ター坊を疑っているわけじゃない。ター坊の正義感は、この前会った時に痛いほどよくわかったし、まっとうな仕事をしているのは間違いないと思ってる。
ただ、いくら法律家といっても、ター坊は、社会のメインストリートしか知らない男だ。
今度の依頼自体、ター坊が、海千山千の詐欺師にだまされてる可能性だってありえる。高学歴の人間ほど、無意識の中に、自分が優秀だという自負と自尊心があり社会の裏側を熟知している悪党は、その隙をついて接触してくる。
実際のところ、いくら頭脳明晰であっても、実戦経験の少ない学校秀才は、所詮はアマチュアだ。社会の裏側を知り尽くした悪党が接触してきたら、あっという間に食い尽くされる。金魚の水槽にピラニアを放り込むようなものだ。
そんな不安を消すために、貴重な時間を割いて、ター坊の事務所にでかけた。もちろん、アフターで学生時代の思い出を肴に、飲みたかったのもあるけど。
結果は「シロ」だった。ター坊と提携して仕事をしている弁護士も裏を取ったが、全く問題はなかった。願ってもないことだ、上場企業の大手「グローバル・エージェンシー」のシステム開発を全て任せてもらえるとは。
この仕事を終わらせれば、一気に業界のトップシェアを押さえることができる。ター坊と、資料を確認しながら、興奮で足が震えた。
ただ、やはり世の中はそういつも、オイシイ話ばかりじゃない。
契約のための面通しする直前になって、クライアントから今回の仕事がコンペになるという連絡が来た。オイシイ話をかぎつけてきた他の企業が、売り込みをかけたのだろう。 |
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