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「え、どうして?防衛省関係とか、役所関係の売り上げで食えてるじゃん」

「たしかにそうですけど、経常利益は下がりますから、社長以下役員の経営責任が問われるでしょう?富国電気も、オフィス向けのパソコンやウェブサーバー・周辺機器などを販売していますから、今期は海外だけじゃなくて国内の需要も落ち込み、大幅な赤字に転落しました。

上層部では大規模なリストラ案を練っているみたいですよ。そうしないと株主から、経営陣の退陣を求められますからね」

「そうか、それで短期間のうちに、町に失業者やホームレスが溢れたわけか。ひょっとして社内の雰囲気が悪くなっているのも、そのせいなの?」

「そうです。……。みんな、内心自分がいつ首きられるか不安でしょうがないんでしょう」

「そうか…。それより、京介と康市は?」

「康市君は、今日は美森のITコンサルティングで仕事をしています。どう言えばいいのかな……。不思議なんですよね。不況なのにインターネットの中は好景気で、ウチも外の大手ショックピングストアも、ネット関連は最高営業利益を出しているんですよ。

「そうか。まあ、なんだかおかしな経済構造になったもんだな。それで、京介の方は?」

「京介さんは、あの事件からすぐ職場復帰して、上層部の命令で、秘密裏に単独で何かの仕事をしているようです。

おそらく、ゴールデン・パートナーというヘッジファンドの件だと思います。富国電気の株を買い増して大株主になったんですが、彼らもリーマンショクのあおりを受け経営が悪化し、富国電気の株式をどこかへ売却したらしいんです。

それで、新たな安定株主探しと、自社株の買戻しなどをやっているんじゃないでしょうか。最近、京介さん、ここにたまに来るだけで、いつも無口な感じで帰って行きますよ」

「そうか、それは大変だな。だったら僕も、手伝おうかな」

「いや、ダメです。賢一さん、ほらこのセクションは例の事件を完全にもみ消すのも仕事のひとつなんですから。正直、僕一人で掲示板やブログなんかのチェックをしてまわるのは、もうウンザリですよ」

「げ!例の件って、ネットに情報が流出してんの?」

「いえ、告発するような書き込みはありません」 

「そうか、よかった。なんにも問題ないじゃん」

「それがかえって気になるんです。大体、あれだけの事件が起きたにも関わらず、ネットからはそういう情報がすべて消えているんです。何かおかしくありませんか?」

「まあ、そう言われればそうかも知れないけど、こちらとしては好都合じゃないか。さあ、仕事しましょう」

「はい……」

僕と佐藤は、各々パソコンに向かって睨めっこをはじめた。久しぶりに集中して仕事をしていると、あっという間に時間が流れ、5時になってしまった。

「賢一さんは、今日は無理しないで帰ったらどうですか?後は僕がやっておきますから」

「ありがとう。じゃあ、甘えさせてもらうよ。まだ、本調子じゃないっぽい」

「お疲れさまです」

佐藤の声を背中で聞きながら、エレベーターに乗った。結局この日、京介とゴリは顔を見せなかった。


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