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夕日の向こう側

自宅のマンションに戻ると、とりあえずスーツを脱いだ。暑さからようやく開放されて、ため息がもれると同時にTシャツとトランクスになり、テレビをつけてソファーにもたれた。

窓越しに、夕日が見える。割と高い位置にある僕のマンションは、この時期の夕日がきれいに見える。ベランダに出ると、夕日を見ながらタバコをふかした。

そういえば、最近、こんな風景を眺めてなかったな。最近の僕は、抜け殻の様な生活を送っている。改めてそう思った。一人で過ごしているのがいけないのだろうか。

両親が他界し、友人や同僚達が結婚して、おまけに大好きだった恋人までが他の男と結婚してしまったからな。ますます、一人でいることに慣れていくから、いけないんだろうか。とはいっても、周囲の人たちがそんな状況じゃ、まあ、しょうがないか。

手すりにもたれて夕日を見ていると、子供の頃に父親に連れて行ってもらった川の事を思い出した。

美森の僕の町を流れている、犬井川という川だ。

僕らが子供の頃は、河口堰などはなく、まだ海と川がつながっていた。

干潮時に川下の方に行くと、川の水が引き、海の魚やエビを簡単に見つける事が出来た。

その時間を待ち構えていて、近隣の住民達と一緒に、籠に入れて持ち帰るのだ。

他愛ないことだったけど、ひとつの事でみんながワイワイやって楽しかったことを覚えている。しかし河口堰が出来て、その風景は2度と見られなくなった。

久しぶりに帰った美森で見たのは、昔のように街全体が連帯感のある姿ではなく、どこかよそよそしい、人と人の絆が遮断された街の風景だった。川に堰が出来たのと同時に、人の心にも厚い壁が出来てしまったようだ。

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