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「それって、いつの話?」

京介が尋ねた。

「え〜と。昭和30年代前半かな…」

「そりゃ、そうだよね。戦時中には、そんな事出来ないよね」

「でも、戦時中でもアメリカと交流はあったんだよ。アメリカに住んでいた日本人が日本に帰る時に、開かれていた港は、横浜だったし、一応、定期船が運航されていたんだ」

「へーえ」

「国際法で、戦争中であっても民間人は攻撃しちゃいけないことになってるからね。もっとも昭和20年の5月の横浜大空襲の時とかは大変だったらしいけど。戦争が始まる前は、いたってのどかだったらしいよ。今みたいに飛行機の国際線もなかったから、ここから氷川丸でアメリカに渡っていたらしいし。国と国の問題はいろいろあるけど、人の暮らしはどこも変わらないからね。ほら、あの鐘」

ヤスオがまた説明し始めた。

「この、エル・カミーノ・レアールのミッションベルは、サンディエゴ市と姉妹都市提携25周年を記念して贈られたものなんだ」

僕らは、それからヤスオの観光ガイドを聞きながら、かもめの水兵さんの歌碑やリカルテ将軍記念碑などを見た。

そして、海側の方を歩いていると赤い靴の女の子の像が見えてきた。

近くまで行くと、その像の膝の所になぜか小銭が積まれていた。京介が、東京の麻布にも同じ像があるって言ってたっけか。この女の子も、きっといろんなことがあったんだろうな。像の目の前に捧げられた小銭をみて、ふと、そんなことを考えた。

「ちょっと疲れたね。休憩しようか」

ヤスオは、そう言うとベンチに腰掛けた。

「ヤスオ、どうでもいいけど、居心地悪くね?」

京介の言葉に周囲を見渡してみると、ベンチに腰掛けているのはカップルばかりだった。そういえば、ここはデートスポットとしても有名なところだった。

「まあ、いいんじゃない? 傍から見たら、仕事でくたびれたサラリーマンにしか見えないだろうから。開き直ろうよ」

僕がそう言うと、京介は笑って携帯灰皿を取り出して、煙草に火をつけた。

「しかし、あれだな。やっぱ、横浜だよ。外国人が多いね」

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