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夢見るタクシードライバー

オフィスを出てシャッター商店街を抜けると、辺りはすっかり夕闇に包まれていた。

いつのまにか周囲にネオンが輝き始めている。懐かしい風景に包まれてほっとしたせいか、急に疲れを感じた。

みんな、さすがに疲れきっていたらしい。佐藤は、たこ焼き屋の彼女に目をくれる事もなかった。

「佐藤、彼女に挨拶くらいしとかなくていいのか? へそ曲げられて、結婚がご破算になったなんて言われても知らねえぞ」

佐藤の彼女は、たこ焼きを焼く手を休めて、僕達に会釈した。みんな無言で会釈したが、佐藤は見向きもしなかった。

「おい、いいのかよ」

京介が声をかけた。

「仕事があるってメールしときましたから。あとで彼女とはゆっくり話します。それより、タクシーで移動しませんか? さすがに疲れました」

とは〜、ドメスティックな男やな〜。ちょっと前まで、メアドもらって「ゼクシィ、ゼクシィ」なんて言ってたくせに。釣った魚にはえさをやらないタイプなのね。

富国電気に出向しているとはいえ、仮にもITコンサルティングの社長なんだから、マスコミ相手に妙な発言してもらったりしてもらうと困るよな。

企業経営者は、コンプライアンス(法令遵守)とモラルが求められる時代だからな。どっかの国の厚生労働大臣みたいに、妙な発言して、マスコミから足元すくわれないようにさせないとな。一発ヤキを入れて……いや、再教育しとかないとな。

「どうしたんですか? 行きましょうよ」

佐藤の指差す先を見ると、ご都合よく、アーケード出口付近にタクシーが止まっていた。

まあいい。今、そんなこと言ってもはじまらないか。僕たちは、タクシーに近づいた。美森市は、早期退職の関係で、脱サラした50過ぎのタクシードライバーが多い。

アーケードの入り口に止まっているタクシーは、珍しく僕らと同年代の若いドライバーだった。

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