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その時だった。森の奥から枯葉を踏む音が聞こえてきた。ゆっくりだけどリズミカルな音。誰かが、こちらに近づいて来ている音だった。

僕と康市は、反射的に地面に身を伏せた。思わず息を飲む。ひょっとして大声で話していたのを、藤田が雇った傭兵にかぎつけられたのか。

「賢一さん」

「しっ、そのまま伏せてろ」

僕たちが息をひそめている中、確実に足音は近づいてくる。やばい。地面に伏せたまま、ゆっくりと手を伸ばして、腰のサバイバルナイフの位置を確認する。

カサ、バリ、カサカサ。視界の効かない中、足音が僕らのすぐ目の前まで迫ってきた。

とっさに僕は立ち上がって、腰に差していたサバイバルナイフを抜いて、前に突き出した。瞬間、ナイフがはねのけられ、閃光と銃声が暗闇の中に走った。

康市がマグライトを照らす。僕がナイフを突き立てた相手は、ゴリだった。ゴリが鉄の衣装ケースらしき物を肩にかたげて、右手で拳銃を構えていた。

「あぶねえ……ゴリさん、戻ってきたなら、声かけてくださいよ。敵かと思いましたよ。」

「ああ、悪いな。これを調達してきたぞ」

ゴリはそう言うと肩に担いでいた鉄の箱を下ろしてふたを開けた。

「なんすかこれ?」

「順を追って話すから黙って聞け。俺はな、富国電気の例の会議以前からCOLORプログラムの事を調査していたんだ。美森市の大規模停電事件に不審を抱いたのがきっかけだった。

調査の結果、COLORの仕業だと知った後、すぐに世界中のシークレットサービスに依頼して回って、50人ほど傭兵を派遣してもらったんだ。湾岸戦争や東ティモールなんかで歴戦を積んできた猛者をな。

もちろん重役達の承認も得ているし、経費も会社が払ってくれてる。爺様たちとしては事が公になって、大規模な損害賠償請求される金額に比べれば、安い買い物だと思ったんだろう」

「じゃあ、会社での緊急の取締役会は?」

「茶番だよ、社内の重役連中の中には、事の大きさが分かっていないやつもいるし、仮にそれを知ったところで、今度は自分より役付けが上の役員を引きずりおろすネタに使おうとするヤツがでてくるはずだ。

それで、傭兵を雇う経費を捻出することに賛成してくれる派閥と工作したというわけだ。緊急の役員会で承認を取ってしまえば、あとは邪魔されずにすむからな」

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