無料オンライン小説 COLOR 悪魔の抱擁



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車の中で沢木弁護士と雑談をしていると、いつのまにか晴海のマンションにたどり着いていた。二人とも車を降り、沢木弁護士に僕の荷物を持ってもらい部屋へ向かう。

エレベーターに乗り込み、自分の部屋の前までたどり着くと、沢木弁護士は荷物を床に置いた。

「栗原さん、私はこれで帰りますが、どこか遠くに出かける際には、私に一度相談して下さい。逃走と認定される行為をすると保釈が取り消されて、また逮捕される可能性があります。それから、近いうちに初公判の打ち合わせをしましょう。じゃあ、今日はゆっくり休んでください」

「はい、分かりました。じゃあ…」

沢木弁護士に会釈し、ドアを開け室内に入る。身柄を拘束された朝のままだった。室内を誰かに物色された後は見受けられなかった。

とりあえず、ジャージに着替えたら、留守電ランプがピカピカと点滅しているのに気付いた。どうせくだらない、メッセージしか入ってないんだろう。何も聞かずに全部消去した。

喉が乾いたので、冷蔵庫の牛乳を見てみると、さすがに腐っていた。

牛乳をキッチンのシンクに流すと、コップに水を汲み、ダイニングのソファーに座り、飲みほした。

そういえば、お腹が減ったな。寝室に向かうと、ベットの横の金庫を開けた。現金を確認すると、1千万位ある。その中から、100万の札束を取り出して、出前寿司を注文した。

しばらく待つと、寿司屋がやって来た。寿司桶を受け取るとダイニングのテーブルの上に置き、一人で食べ始めた。

しかし、あれだな。出所祝いを1人でやるのも、何か寂しいもんだな。でも、今は誰かに会う気分でもないしな。

やがて、すべてたいらげた後、ソファーに横になり天井を見上げた。

僕が、本当に手に入れたかったものは、何なんだろう?

社会的信頼を失い、友人を失い、これから、どうやって生きていけばいいんだ。

そんな事を考えていると眠気が襲ってきた。

それから、少し息苦しくなったので目を覚ますと、全身に寝汗をかいてビショビショになっていた。

また、変な夢でも見たのだろう。

時計を見ると、もうすぐ夕方の7時になるところだ。

テラスに出て、夕日を眺めた。

そこには、いつものように夕日があり、いつものように西の空へ沈もうとしていた。

その時、改めて思った。毎日、当たり前のようにコツコツ地道に積み重ね。そして、真面目に生きて行く事の難しさを体全体で悟った。

少し辛い経験をしたが、今回はいい勉強になった。これを教訓に一歩一歩前へ進まないといけないな。


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