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「手を振ってもいいですが、テレビに映った時にモザイクが外されますよ」

検察官からそう言われたが、僕は手錠をかけられたまま、みんなに手を振った。

「ケーンーイチ」「ケーンーイチ」「ケーンイチ」「ケーンイチ」「ケンイチ」「ケンイチ」

玄関先に押し寄せた富国電気の社員達がケンイチコールを始めた。

きっと彼らも僕の事を信じてくれているのだろう。

それと、僕が退陣するという事が、どれほどこの会社に悪影響をあたえるのかを悟っているんだろう。

マスコミを押しのけ、やっと検察の車に乗り込むと、外からドアが閉められ、走り出した。

しばらく、車に揺られていると過去の記憶が蘇ってきた。

そうか、上原和樹。どこかで、見たことあると思ったら。あいつはギャング時代に京介の周りをチョロチョロしていた、チンピラだ。

確か、親が破産して行く場所がないってほざいてたな。

クッ。まんまと騙された。

しかし、京介の奴いつからクーデターの計画を立てていたんだ。

あいつは、ガキの頃か野心なんてものは、一切もちあわせていなかったはずなのに…。

途方にくれている僕に、横に座った検察官が前方を直視したまま、小さな声で囁いた。

「あれだけ、大量の株を売却したらインサイダーになるって分からなかったんですか?」

上原と株を市場に売る約束をしたことか?いや、別の話かもしれない。佐藤の言うとおりここは黙っておいた方がいい。僕は何も答えず、沈黙を守った。

「まあ、いい。また、あとでゆっくりお聞きします」

なにか、ひっかかるな。

外に目をやると、マスコミという名のハエどもが、僕を乗せた車につきまとっている。

これが、世に言うマスゴミか……。

だが、そのマスコミュニケーションの方々も拘置所の中まではついて来ることは出来なかった。

そして、僕は東京拘置所に収監されてしまった。

人生の、終着駅がここかよ。

しかし、京介と上原だけは、ぶっ殺してやらないとな。

何が、なんだか、わかんないけど。

さんざん上げられて、まっ逆さまに落とされたな。

これから、なにが始まり、どうやって生きていけばいいのだろう。

今さらながら遅いが、もう誰の手を借りる事も出来ない。

もうすぐ、春だというのに、どこかセツナイよ。

こんな感じで、僕の塀の中の暮らしが始まった。


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