「ヤバ、遅刻だ!」
久しぶりに出勤するせいか、今朝は緊張して少し寝坊してしまった。
慌てて身支度をすませると、会社へ向かった。
車を駐車場に止め、エントランスをくぐり抜け、エレベーターに乗り込む。
ドアが開くと、いつものオフィスの光景が現れた。
エレベーターから出て、一歩ずつ床を踏みしめながら歩く。
「おはようございます」
あれ?何でスルーするんだ。何人か挨拶したが、みんな同じ反応だ。どうなってるんだ?忙しい時に、あれだけ会社をあけたからみんなむくれてるのかな?
まあいい。極秘プロジェクトとはいえ、労災で入院して復帰したんだから、そのうちみんなも機嫌を直して、僕の職場復帰パーティでも開いてくれるだろう。
パーティション越しの緊急対策課の自分の席に着くと、先に出勤してパソコンと睨めっこしている佐藤に話しかけた。
「佐藤君、おはよう」
彼は、僕の声に気づき、慌てて立ち上がると、僕に握手を求めた。
「おはようございます。いや〜賢一さん。出勤するならするって、事前に連絡下さいよ」
「いや、僕ごとき、いなくても……。なんにも問題ないだろう?」
「おおありですよ。賢一さん、のんびりリハビリしてる場合じゃないですよ。今すぐ動いてもらわないと」
「え、どういう事?」
「リーマンショック、知らないんですか?」
「いや、知ってる。ヤスオから、さわりだけ聞いたよ。テレビのニュースでもそういう話やたらしてるしね。でも、3ヶ月近く意識がなかったせいか、熟知していないけどさ」
「そうですか…。まあ、アメリカの事なんですけど…。要は、アメリカの不動産バブル崩壊が発端になって、世界金融が崩壊しかけてるんですよ」
「ああ、その辺りはヤスオにも聞いたよ。でも日本は大丈夫なんだろう?」
「ええ、今のところは先進国の中では一番経済が安定している方です。世界中の通貨の中で円が一番信頼されている状態ですからね。でも、その影響で円高になっちゃいました。結局、日本もかなりダメージを受けています。製造業なんかの売り上げは北米輸出が主ですからね。それに、うちも他人ごとじゃないんです」 |
|