店の中には、無口なマスターが1人いるだけで、僕ら以外の客は見当たらなかった。
僕は、彼女とカウンターの席に座ると店の中を見渡した。
静かで、なかなかいい感じの店だ。でも、どうして美森から出て来たばかりの理香が、この店の事を知っているんだろう。
「君は、この店に来た事あるの?」
「え?……。同じ派遣で働いてた先輩が東京に出てきててね。連れて来てもらったの」
「そうなんだ」
「それより、何か飲まない?」
「そうだな」
彼女がマティーニをオーダーしたので、僕はバーボンをロックでオーダーした。
丸坊主に髭をたくわえた、まるでダルマみたいなマスターが無言で、僕らにドリンクを作ってくれた。
「改めまして、乾杯」
「乾杯」
「ねえ、聞いていい?」
バーボンを一口あおると、理香が口を開いた。
「なに?」 |
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