彼は、そう言うと僕に手を振りながら、両親が待っている車の方に歩いていった。
僕は、ヤスオの家族が乗った車を見送りながら手を振り続けた。助手席に座っていたヤスオのオフクロさんが、ずっと僕に手を振ってくれたのが、胸に刺さった。
これからどうしようか。ヤスオの手前、ああ言ってはみたものの、いざ一人ぼっちになると、かなり寂しいものがある。とりあえず、マンションに向かって歩くか。
駅前のメインストリートをゆっくり歩きながら、街のネオンを見上げた。腹減ったな。そういえば、東京を出てから何も食べてない。
道のすぐ左脇に定食屋があった。少し店の中を覗き込んでみると、客はまばらだった。カウンターに2〜3人座っているだけだ。
基本的に、こういう感じの店はマズイ。しかし、空腹には勝てないので、中に入ることにした。
「いらっしゃい」
店の入り口の引き戸を開けると、大将が無愛想に挨拶した。
僕は、軽く会釈するとカウンターの奥の席に座った。
しばらくすると、店の奥から女将さんが現われ、僕の席にメニューを持って来てくれた。
「何にしましょ?」
「それじゃあ、鮭チャーハン定食とウーロン茶をお願いします」
「はい、鮭チャーハン定食とウーロン茶ですね。大将、鮭定食とウーロン茶、いっちょう」
「はいよ」
大将は、女将さんの声を聞くと無愛想に返事した。でも、仕事はきっちりしているようだ。
材料を刻む音がリズミカルに聞こえてきたかと思ったら、火で油がはねる音が聞こえてきた。意外にいいにおいだ。腕はたしかなんだろうけど、人が減って商売が立ちゆかなくなたんだろうな。
それから、食事が出来るまでしばらく店の中にあるテレビを見ていた。テレビニュースは、相変わらずこの国の悲惨な出来事を映し出していた。
「鮭チャーハン定食と、ウーロン茶おまちどう」
テレビに夢中になっていると、女将さんの声がした。目の前のテーブルに視線を移すと、鮭定食とグラスに注がれたウーロン茶が並べられていた。 |
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