無料オンライン小説 COLOR 心海に眠る友情と劣等感



 > トップ

運転手のお兄さんは、僕達に気付くと後部座席のドアを開けた。

僕たちが乗り込むと、運転手は無言でドアを閉めて、走り出した。アーケードを出てすぐの信号で止まった時、運転手は、助手席に座った僕に話しかけてきた。

「え〜と。どちらに行きます?」

「中央区の三番館っていうイタリアン・レストランなんですけど……わかりますか?」

「ああ、三番館ね。前に、お客さん乗せた事あるから大丈夫っす」

運転手は、何やら無線で会社に連絡した。

「夕方なのに、空いてますね」

「お客さん、こっちの人?」

「ええ、でも今は仕事で東京にいるんです」

「じゃあ、最近のこと知らないんだ。不況は今にはじまった話じゃないっすけど、最近はめちゃくちゃ厳しいですよ。同業者でも客の取り合いなんです。ほんとはね、アーケードの入り口って客を拾っちゃいけないんですけど、生活には代えられないですしね」

信号が変わった後、運転手は車を動かしながら、笑った。

「大変ですね」

「まあ、自分の場合、人生の坂道コロコロっすよ。大学出る年になったら、いきなりバブルがはじけちゃいましてね。美森に残って頑張ってみたんですけど、それから10年ちょい頑張ってもこのありさまですよ。ところでお客さんは、美森にお仕事ですか?」

「ええ、IT関係の仕事なんです」

「東京からIT関係の仕事っていったら、M&Aだっけ。企業買収か何かで来たの?どういうわけか、美森もIT関連の会社だけは元気いいですからね。IT関連産業は、美森の最後の成長産業ですから、このあたりのIT関連の会社買い取ったら、大変ですよ。美森市民を敵に回すことになっちゃう」

そう言って運転手は、小さく笑った。

「いや、あの……。世間で言われているIT企業のほとんどはヘッジファンドなんですよ。つまり昔の相場師みたいなもんです。要は安く企業の株を買い占めて、高く売って商売している人達で、僕らはコンテンツ制作を主な仕事にしてまして……」


PR広告
Copyrights (C) 2005 COLOR. All Rights Reserved