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「はい、先ほど完了しました」

「はやっ」

「プレゼンの後、大急ぎで、ファッションホテルの利用システムを検索しました。利用は初めてでしたが、なかなか快適でした」

「仮にもプレゼン会場で何やってんだか」

佐藤を、うちの会社の最高財務責任者にすえたのが正しかったのか心配になってきた。

「学生の時は、保健体育の授業を無駄なものだと思っていましたが、こういうシチュエーションではやはり実用的な知識ですよね」

やっぱり次の役員会で、議題にした方がよさそうだ。こいつ、ほっとくと、仕事ほっぽらかして、サルになりかねないや。まあいい。彼女とのことを祝福してやろう。

「こいつはエリートだし、うちの時期社長候補だから、今が買い時ですよ」

後ろの席から京介がはやしたてると、佐藤もたこ焼き屋の彼女も、下を向いてしまった。僕は京介の言葉を背中に受けながら、佐藤に耳打ちした。

「佐藤君、もう僕らの時代は終わったよ。僕らが二十歳になったとたん、この国の経済は停滞してしまった。いや、この国の全てのシステムが崩壊してしまったと言ってもいい。

僕や京介はヤクザまがいに塀の上をフラフラしながら、何とか会社を成長させてきた。まあ、いわゆるこの国の暗闇の時代に浮かぶお月さんを目指して生きてきたんだ。

でも、何とか日本経済も立ち直りつつある今、僕と京介みたいに、暗闇の中で育った人間は必要がなくなる時期がやってくる。そう、再びやってきた、この国の夜明けの時代には、君のように太陽を目指す人間がふさわしいんだ。

日本国はこれから20年から30年のスパンで、経済回復していくだろう。国際社会の中での地位も、より重要な位置を占めるようになるはずだ。

その時に僕らみたいなヤクザまがいの人間が、メガカンパニーの代表者では世間に示しがつかない。僕は、自分の人生の半分をお金儲けのためと、会社を成長させることに使ってしまった。残念だが、これ以上会社を伸ばすことは難しいと思う。

それに、人間いつ死ぬか分からないだろう。生きているうちに君に後継指名しておこうと思う。京介も、他の役員も内々で同意を取り付けている」

「なに、言ってんですか。賢一さんらしくないですよ。僕ら、まだまだでしょう。上狙ってせめて行きましょうよ」

佐藤はそう言うと、少し涙を浮かべた。しおらしい一面もあるもんだ。と思ったら、隣の彼女といちゃつきはじめた。聞き流しやがったのかよ。まあいい。人の幸せほど小憎らしいものはないので、そそくさと自分の席にもどって、またホッケに箸を着けた。

それから散々ハメを外して飲んだ後、お開きとなった。僕は、いつのまにか酔いが回り、ベロベロになっていた。財布の中の有り金を全て吐き出し、会計を済ませると、京介と康市に両脇を抱えられて店を出た。まるで捕獲された宇宙人みたいだ。

「どうしますか?」

「少し近くの公園で休ませよう」

そんな声が聞こえた。ぼんやりした光景の中で、近くの公園が近づいてくるのが見えた。


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